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「さっきから朝陽さんはいったい何を言って……?」
「――いいか、鈴凪。来月行われる俺たちの結婚式で、アンタは世界一の愛され花嫁のフリをしろ。それが今回、俺たちの間で交わされる契約の内容だ」
世界一の愛され花嫁のフリ? それってどういう事なのか、首を傾げ神楽 朝陽の言葉を反芻するともっと大きな問題に気付かされる。結婚式を挙げるとは確かに今さっき聞いた、それでも。
「いま、来月の挙式って言いました? その、私の聞き間違いですよね」
「耳の聞こえが悪いのなら俺が通う耳鼻科を紹介してやろうか? 挙式は来月で、もう会場も決まっている。準備で忙しくはなるだろうが、それでも鈴凪は完璧な花嫁を演じて見せてくれるんだよな?」
私を挑発するようなその言い方に、無駄に負けん気の強さが発揮されて思わず「やってやろうじゃないの!」と答えてしまった。将来は人の上に立つことを約束されている人間だけあって、周りの人を思いのままに動かす事がとても上手らしい。
「完璧な花嫁を演じたら、迷惑料はチャラになるんですよね?」
「ああ、鈴凪が完璧な愛され花嫁として振舞ってくれればな。万が一失敗した時のペナルティーも、あった方が方がやる気も増すだろうし」
それはやる気を出させるためのものではなく、何が何でも失敗するなという神楽 朝陽の脅迫のようにしか思えないけれど。
それでも恋人として紹介され、結婚式までの期限も二ヶ月しかないのなら断ることは出来ない。私を試すような意地悪な笑みを浮かべる彼を、しばらくは負けじと睨み返しているだけだった。
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