その契約は強制で

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「世界一の愛され花嫁って簡単に言いますけど、本当に愛されてもないのに愛されてるふりって相当難易度高いんですよ? それ、朝陽(あさひ)さんはちゃんと分かってます?」  少しの間は二人して相手を睨み合っていたが、それに飽きたように大きなベッドに腰かけネクタイを緩め始めた神楽(かぐら) 朝陽(あさひ)に向かって私はそう言った。  正直なところ彼と結婚するほど想い合っている親密さを出すだけでも難しいと思っているのに、こんな人から世界一愛されているように見えるにはどうすればいいのか全く想像もつかない。  そのためには、まず神楽 朝陽の事を知らなくては始まらないだろうと私は思ったのだが。 「そこは鈴凪(すずな)の演技力の見せ所だろう? 学生時代は演劇部副部長、それも何度か主役を張ったこともあるそうじゃないか」 「……そこまで、調べたんですか? もう何年も前の事なのに」  流石に神楽グループの御曹司が何の調査もせずに、私にこんな役をやらせるようとするなんておかしいとは思ってた。だけどこんな短期間に自分の事を過去も含めて調査されたのだと思うと良い気分はしない。  ……そりゃあ確かに、最初の出会いがあんなものだったから仕方ないとは思うのだけど。 「ああ、簡単な素行調査程度はさせてもらった。たまにあの時の鈴凪のようなアクションを起こして、俺に近付こうとするライバル企業の刺客が紛れてたりもするんでね」 「そんな事もあるんですか……大企業の御曹司ってのは思ったよりも大変なんですねえ、我儘放題好き放題ってばかりじゃないんだ」  ほうーっ、と感心したようにそう呟けば、神楽 朝陽は眉をピンと上げてこちらを睨んでくる。後半は小声で言ったつもりだったけれど、しっかり聞こえていたらしい。 「お前、俺をいったいなんだと……」
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