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「そうよ! 二人で貯めてたはずの結婚資金、あれはどうなったの?」
「は? 俺が知るかよ」
べつに神楽 朝陽に聞いたわけではないのに、勝手にそんな不機嫌な返事をされても困る。でもそんなこと気にしてられる状況ではなくて、私はバックの中からスマホを取り出して急いで指で操作する。
毎月5万という金額を流に渡していた、彼がきちんと貯めてくれると約束したから。でも別れるときに流はその事について一言も話さなかったし、お金も返してもらってない。
私たちが付き合った期間は長く、少なくとも私が渡した金額だけで数百万にはなっている筈なのに。
だけど……
『おかけになった電話番号は――――番号をお確かめになって――』
「……嘘?」
昨日別れたばかりなのに、流はすでにスマホを解約していた。彼の仕事先はここだし、アパートの場所だって知ってるから会おうと思えば見つけ出せるだろう。
だが私を避けるためだけにスマホを解約されたことがとてもショックだった。
「おい? どうした、大丈夫か?」
「……ばない。大丈夫じゃない、どうして?」
スマホを持ったまま呆然としている私に、神楽 朝陽が声をかけてくるがそれもどこか遠くて。ただ流に嘘をつかれて連絡さえ拒否されたという事実が、受け止めきれなかった。
だけど、悪い事は何度も続くもので……
「本当だって! もう別れたんだ、鵜野宮さんもこれで俺の本気を分かってくれるだろ?」
「ふふふ、それはどうかしらね?」
社員通路からロビーへと若い二人の男女が歩いてくる。その声には嫌という程、聞き覚えがあって……
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