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「流君の知り合いなの?」
鵜野宮と呼ばれた女性が、彼に笑顔でそう訊ねる。その呼び方に、二人の親密さを感じてどうしようもなく胸がざわついた。だけどそんな私に、蔑むような視線を向けた流は信じられない事を言った。
「いえ、昔の知人に似てた気がしただけで。あんなみっともない女と知り合いなわけがない、さあ行きましょう鵜野宮さん」
「そう? ふふふ、流君の元恋人だったりするんじゃないの?」
「まさか! 俺は鵜野宮さん一筋ですよ」
そう言って笑いながら、私から離れていく流。決して振り向くこともなく、彼はその女性と共に建物の外へと出て行ってしまった。
嫌でも気付かさせられる、流からの一方的な婚約破棄の本当の理由。すぐに解約されたスマホ、渡したお金はきっともう返ってこないのだろう。
付き合った期間は決して短くなかったはずなのに、私は流にとってそれだけの存在だったんだ。
言葉を失いガックリと項垂れる、さっきまで負けるものかと抵抗していたのにそんな気持ちも全部なくなってしまった。
「おい、彼女を離してやれ」
「え、ですが……」
「もういい、俺が直接その女と話をするから」
私の傍で神楽 朝陽が取り巻きの男たちと何かを話しているが、言葉全部が通り過ぎていくみたいで。
その場で呆然としていた私を彼が強引にその場から連れ出すまで、何も出来ないでいた。
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