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ほとんど崖を踏み外しそうになる、その寸前。
ふいに私は、自分がなにをしようとしているかに、気づきました。
私のようなどうしようもない人間など、もうどうなったってかまわない ――
そう思っていたはずなのに、私の本能は私に似て、ずいぶんと生き汚かったようです。
ぶるぶる震えながら、私は深淵から離れようとしました。
―― うそつき
水の底から妹が叫んでいます。
―― ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃない
―― 裏切り者
―― 死ね死ね死ね死ね死ね死ね
―― 絶対に幸せになんかさせないから
―― 苦しんで苦しんで苦しんで永遠に苦しみ続けて
―― さあこっちに来てよ
―― あたしをひとりにしないでよ
私は、一歩も動けませんでした。
離れようとしても、妹が、離すまいと引っぱってくるのです。
少しでも気を抜いたら、完全にあっちに引っぱられてしまう ――
「ごめん、ごめん、ごめんな、 K 」
ただ逃れたい一心で、私は口を動かしました。
「だが今は一緒に行けないよ。私が行ってしまったら、私たちの子はどうなるんだ? 」
引っぱってくる力が、ふっと弱まりました。
そうだ。
たとえ、もし妹が子どもを産んだ理由が私へのあてつけだったとしても。
その底にはおそらく、違うものが…… 復讐以外のなにかが、あったはずだ。
そのなにかが、妹にどんな表情をさせたかを、私はあの盆の夜に見たではないか。
それならば、この命が助かるとき、
私がすべきことはひとつだけだ。
―― どんなに謝っても、許さないから……
妹の声を背に、私はよろよろ、火山を降りていきました。
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