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「親父、飲みすぎだろ」
「こんなめでたい日に、飲まずにいられるか」
「そんなこと言って、親父は毎日飲んでるじゃねーか」
息子が呆れ顔で差し出すウコンドリンクをラッパ飲みしながら、私たちは火口への道をゆっくりと登っていました。
―― 妹と私の子を引き取って、24年目の冬。
一生懸命に育てたつもりでも、至らぬところは多々あったでしょう。しかし幸いなことに息子は優秀な子に育ってくれました。
頑固で少し浮いたところもたまに見られるものの、活発な天才肌。
就職活動も難なくこなし、大手製薬会社の内定を仕留めるなど、親の私から見ても羨ましい限りです。
このように、典型的な成功者に見える息子にも、悩みはありました。
彼がそれを明かしたのは、親子ふたり、就職内定を祝っていた席でのこと。
息子は改まって私に、母親のことを聞いてきたのです。
私はこれまで、息子に妹の写真1枚、見せたことはありません。
私と妹との間に生まれた子だという事実を、気づかれたくなかったからです。
尋ねるたびに私がごまかしてしまうものですから息子も遠慮したのか、いつしか母親のことを口に出さなくなっていました。
―― けれども、ずっと、気にしていたのでしょう。
そろそろ、しおどきでもあります。
母さんはどんな人だった、と問われて、まず私の頭に浮かんだのは、ずっと避けていたあの噴火口でした。
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