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「よし、ちょっと付き合え」
私は息子と火山のトレッキングコースをたどりながら、妹について差し支えないと思われる部分だけをぽつぽつと語りました。
―― 息子を育てているあいだ、ずっと感じていたのは、妹のくらい視線。
おそらく妹は、私が再び間違いをおかせば容赦なく、妹と同じあっち側に私を引きずっていくつもりだったのだろうと思います。
いつもどこかから私と息子をじっと見ている気配がありました。
こんなことは、息子に話せるわけがありません。
けれども、私と一緒に息子を見守ってくれていたことは、伝えます。
何でも私を頼りにしてくれて、私の言うことをよく聞いてくれていたことも。
私を運命のひとだと言ってくれていたことも。
「運命のひとだなんて、母さん、少女趣味だったんだな」
「少し夢見がちではあったかな」
「親父は? 親父も運命だとかで母さんと結婚したのか? 」
私は苦々しさを隠して笑ってみせました。
いずれは息子も、真実を知るときがくるでしょう。
そのときに彼が折れてしまわないように。しなやかに強く生きていってくれるように。
そう願わずには、いられません。
「運命というなら、母さんだけじゃないさ。おまえもだよ、R 」
「キモいな」
「いや本当だ。いろいろあったが今となっては、母さんに R を産んでくれてありがとうと感謝したい…… R がいなければ、父さんの人生には間違いしかなかった」
低い火山にしては大きな火口が、見えてきました。
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