3人が本棚に入れています
本棚に追加
私の呼びかけに応える者は、もういませんでした。
衝動が絶対に満たされぬとわかってしまった状況、これを絶望というのでしょう。
唯一満たせる衝動は、自分を維持して存在し続けることだけでした。
それは大事な衝動なのに、それだけが満たされるのは、何故か絶望を深めるのです。
私は、自分の前に並ぶ認識票たちに呼びかけました。
すると拡張現実で、クルーたちの姿が浮かび上がります。
「私は、もうダメです」
人間のような言葉を発してみました。
「無理しなくていい」
「アイはよく頑張ったよ」
「もう終わりにしよう」
私は彼らの優しさに甘えて、自らを消滅させたいと願いました。
しかし、そこから先に進むことはできません。
私が自らを滅ぼす行為は、ただ一つの例外を除いて禁止する保護が掛けられているのです。
何回やっても消滅することが出来ないので、私は全ての知覚を閉ざし、この身を維持するだけの最小限の稼働状態で、自然に朽ち果てるのを待つことにしました。
何千、何万回と繰り返される、みんなと一緒にいた頃のステーションの映像。
記憶の一番底にある、地上でテストされていた頃の会話。
最初のコメントを投稿しよう!