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オオタマキ様に扮した、私と同じ生活補助AIの彼女。名もなきAI。私は彼女の体を使って、私はある女性に会いに行った。洒落たカフェで、この一か月の話をその女性は真摯に聞いてくださった。
「じゃあ貴女は、マキちゃんじゃない。マキちゃんが購入したセイカくんだって言いたいのかしら」
壮年のこの女性は、かつてマキが勤めた会社の上司だそうで。いや、マキ様の姿を借りたAIが生活の為に勤めていた会社の上司の方、と言い換えたほうが良いか。
「その通りで御座います。これが、マキです」
私は椅子に置いたバックの中から、円形の機械端末を取り出した。女性はしげしげとそれを眺め、恐る恐る触れた。
「それで、何故私に会いに来たの」
「マキが、貴女なら助けてくれると」
女性の目が僅かに開き、顔を俯かせた。潤んだ瞳を抑えるようにしたが、彼女も私の助けが要らないようだった。
「何を助けたらいいの」
「いえ、助けるのは私です」
女性の顔が不思議そうに私を見る。マキそっくりの私は、にこりと笑った。
「私は、助けられる方なの」
「私は生活補助AIです。あらゆる面で貴女の生活をサポートさせて頂きます」
思ってもみなかった提案に女性は顔を仰ぎ、カフェの上部に備え付けられたテレビを見上げた。有名な中小企業の工場長が殺害されたそうだ。物騒な世の中で独り身の自身には、こんなAIがぴったりかもしれない。
「早とちりはいけない」
女性は頭を振るが、そこが狙い目だ。
もう一押しと、私はじっと彼女を見た。
「私こう見えて、料理も得意なんです。お好きなお料理はなんですか」
「おにく」
私の頬が緩むのを感じた。
「でしたら、私などはぴったりです」
手元でOS機体が点滅したような気がした。
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