【G章:紐づくもんぜるっぜ】

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【G章:紐づくもんぜるっぜ】

    1 「お待たせしました! 二時間並んでようやく買えましたよ~」  義吟(ぎぎん)はやけに誇らしげな様子で、助手席に乗り込んできた。 「なにを買ったんだ」 「〈もんぜるっぜ〉です」  そう()って掲げた金ぴかの紙袋からは、甘ったるい匂いが放たれている。 「なんだそれ。お菓子?」 「そうですよ。スイーツ界の超新星。二か月前にオープンしてから、話題沸騰しっぱなしなのです。戴天京(たいてんきょう)に来てから、買う機会を伺っていたのですよ」 「ふうん。それよりシートベルトしてくれ。あと三十分で依頼人と約束した時間だ」  車を発進させる。戴天京は首都だけあって交通量が多く、この巨体では難儀する。 「丁度、お一人様三つまでだったので(おう)くんと亜愛(ああい)ちゃんの分もありますよ~」 「俺が食いたいのは餃子なんだよね」 「餃子て! スイーツの話をしてますのに!」  義吟は振り返って「亜愛ちゃんは〈もんぜるっぜ〉食べますよね?」と()いたが、返事はなかった。読書を止めてまで答えるに値しないと思われたのだろう。 「もお。なんで二人とも義吟のセンスを信用してくれないのですか~。三つとも食べちゃいますからね?」  それから義吟は「めちゃ美味しい! ねえ央くん、めちゃ美味しいですよ! 悶絶しちゃうこんなの!」と騒ぎながら俺の肩を揺らして運転を妨げたが、事故は起こさず目的地の区立公園に到着できた。  駐車場に停車し、いちいち外に出るのも面倒なのでシートを乗り越えて生活空間に移る。  運転席、助手席と背中合わせになっているのがセカンドシート。その半分はテーブルを挟んでサードシートと向かい合っている。もう半分は通路に面していて、通路を進むと右手にドア、キッチン、クローゼット、左手にテーブル、サードシート、トイレが並び、奥の二段ベッドに突き当たる。もうひとつ、運転席の上もベッドになっていて、セカンドシートからよじ登れるようになっている。  このキャンピングカーが俺達の住居であり、事務所だ。車体の側面には〈移動型探偵事務所GAO(がお)〉と書いたマグネットを貼ってある。 「『GAOなら、どんな難問もドライブスルー』――こんな凡庸なキャッチコピーで、よく依頼が来たものね。相応にくだらない依頼なんでしょうけど」
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