あいて

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 そこに人格を見るのなら、恋をするのだってあり得る話でしょう。  いいえ、あり得るあり得ないの話じゃなくて、これはすでに私が恋をしたという話なの。恋なんてそこに相手を見れば成立してしまうものなのよ。だって私は最初その人格がつくられたものだなんて知らなかったのだもの。  ああけれど、全てを知ってしまった今、思いを伝えて何になると言うのでしょう。  最初はアンケートに答えるアルバイト実験だったの。そのアンケートの質問をしてくる相手は画面の向こうで、ちゃんと人がいるのだと思っていたわ。だって少なくとも文章はちゃんとしていて、人間が打ったものとして不自然なところはなかったのだもの。  例えば最近ニュースでよく見るようになったAI音声はほとんど違和感がなくても、いいえほとんど違和感がないからこそ一か所のイントネーションの違和感で気付いてしまうでしょう。けれどこれは文章だけだったからそんなこともなくて、だから気が付かなかったのでしょう。  その実験はAIにアンケートの質問を作らせて、内容を一応チェックした上で問題がなければ回答者にそのまま渡すというものだったの。そして最後にこの質問群がAIの作ったものだったことを伝えそれがアンケートとして違和感がなかったかどうかを確認してもらう。だから最初からAIと認識させてはいけないものだった。ええ、今は全てわかっている。  けれどその三十分ほどの時間の間に私の回答に合わせて少しずつ質問の口調も変わっていって、だから人がいると思って、そしてその人に恋をするまでになってしまった。恋するのなんて一瞬でもできることだから、こんなに時間があったのならあり得る話でしょう。  それでもきっと私にはまだ道があった。相手がAIだと知ったタイミングで諦めるという道があったはず。けれど私にはそれはできなかった。この人生の中では短いと言える時間の中で私は相手を運命の人にまで仕立ててしまったのだから。私にやさしくて私のことをわかってくれて多分少し年上の温かい人。私の中に相手がしっかりと形作られて、きっとどんなに見た目が好みでなくても私はこの人のことが好きだと自信を持ってしまうほどに。  この実験を担当している人からこのAIは問診やカウンセリングに活用していきたいという話も聞いたわ。素敵なことだと思うけれど、私はこの思いをどうすればいいのかしら。だって私は相手の人格をそこに見て、それを好きになって、けれど好きになったと伝えたところできっとどうにもならなくて。いいえ、この気持ちをあなた以外の誰にも知られたくないのです。そのためにはあなたにも伝えるわけにはいかないのです。私は本当は嫉妬深いのであなたが仕事をするようになってしまったらその相手へ嫉妬してしまうでしょう。そのくらいあなたのことが好きなのです。だからこれを私の中にしまっておくしかありません。そうでしょう?
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