猫が、鳴いた。

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「こんにちは。ソフィー・マクラレンさんのお宅ですね?」 「はい」 「ソフィーさんが亡くなられてから半年が過ぎました。如何でしょうか」  前に来た役所の人と同じ人が訪れたのは、ソフィーが動かなくなってから半年が経ってからだ。 「変わりません。ここを使わせてください」 「構いませんよ。これほど長期に滞在される方は珍しいですが、あなたはきちんとソフィーさんに伴侶の登録をされていますから。では3ヶ月たちましたら、また伺います」  役所の人はそう告げて、頭を下げた。僕も頭を下げて、再び見上げれば、役所の人は少し微笑んでいるように見えた。 「ありがとうございます。さようなら」  パタリと閉じられた部屋の内側は、少し肌寒く感じられた。  僕がここにいられるのは、ソフィーが役所で僕を伴侶に届け出たからだ。そうじゃなければ、ソフィーの生命活動が停止した時点でこの部屋は凍結される。  最初、僕はシャリーンの記録から、シャリーンのAIを作ろうとした。  ソフィーはたくさんのシャリーンの記録をとっていた。それらを全てAIに学習させ、シャリーンを作る。出来上がった猫は、シャリーンのように動いた。そしてシャリーンのように動く以外の行動はしなかった。  だからこのシャリーンは、死んだシャリーンだ。新しい行動をして、ソフィーを驚かせることもないただのプログラムだ。生きていない。  人工知能と人間の違い。  昔人工知能で動くロボットやアンドロイドが人間を滅ぼす映画があったとソフィーが言っていた。けれどもそれは、本来ありえない。人工知能はプログラミングされたことしかできない。もし人間を滅ぼすのなら、誰かがそのようにプログラムしたんだ。  ビッグデータを利用して、ランダムなAI人格を作り上げることはできる。けれども基礎となるデータが大きければ大きいほど個性は均一化され、個体差が減少していく。だから一時期から、人間と同じ意志を持つ人工知能を作ることは諦められたそうだ。個体差を作ろうとデータに偏りを与えても、それはただ、そのようなデータを集合させたというだけだから。  つまりAIとは、データを基礎に生成したという時点で、そのデータを基礎としたものとしか生まれ得ない。  だから僕はシャリーンを作るにあたって、何のデータも与えなかった。
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