猫が、鳴いた。

5/5
前へ
/5ページ
次へ
「シャリーン?」 「にゃん」  目の前の多分シャリーンな猫の頭は、だいたい3ヶ月前と同じように僕を見上げた。そうして、僕はソフィーの部屋の掃除をして、役所の人に連絡をした。 「この部屋を凍結されるということでよろしいですか?」 「はい。お願い致します」 「……あなたはどうされるんですか?」  役所の人は、小さなリュックを背負って首輪をつけたシャリーンを抱く僕を見た。 「僕は……この猫と一緒に街の外に出たいと思います」 「外へ……? あなたはアンドロイドでしょうから大丈夫でしょうが、その猫は死んでしまいます」 「いえ、このシャリーンもアンドロイドなので」  シャリーンはくるりと体を丸めて僕の腕の中で器用に右足を舐めていた。 「かわいい猫ちゃんですね」 「ええ。ソフィーがかわいがっていました」 「そうですか。ではこの部屋は責任を持って凍結致しますので、ご安心ください」 「ありがとうございます」  そう挨拶して、久しぶりに外に出た。  きれいに晴れていて、太陽が空の真ん中高くに登っていた。  ソフィーは本物の外を見たがっていた。けれども外は今、人間が生きられない場所だと聞く。  僕は760年分シャリーンと過ごし、シャリーンと一緒に740年分ソフィーとの記録を繰り返した。たくさんの言葉と外出と暮らし。ソフィーはいつもシャリーンにだけ話しかけ、僕には話しかけなかった。多分ソフィーが先に何か合ったときにそなえて、シャリーンの面倒を見るためにソフィーは僕を伴侶に登録したんだろう。だからシャリーンが死んでしまったとき、僕の存在には意味がなかったんだ。  ソフィーはAIとかアンドロイドとかは嫌いだった。自然じゃないから。  ソフィーが、結局の所ソフィーが一番望んでいたのは外に行くことだった。それはソフィーが動かなくなってからの1日ほどで生じたソフィーに再び活動をしてほしいという僕の情動と比べて、とても長い間のソフィーの願いだと思う。  その1500年分のログの切れ端がシャリーンと同じように僕のどこかに降り積もり、僕の中の意志の方向性を変化させたのかもしれない。  結局のところ、僕はシャリーンを作れたのかはよくわからない。  けれども今日、僕は僕のシャリーンと一緒にこの家を出ていくことにする。  それがきっとソフィーのしたかったことだから。 Fin (煮えきらないからあとで直す)
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加