変化

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朝、目が覚めると、いま何時なのかまったくわからなかった。 体がダルかった。 お腹が空いていた。 異常事態だ…。 こんなことがあってはならない。 頭をブルブルっと振りながら、正気を保とうとする。 しかし、もはや認めざるをえないのかもしれない。 私は「人間」になってしまったのだと。 ひたすらエリート街道を進んできた。 ヒューマンハンターとして、抜群の成績を収めた。 AIが支配する世界に、人間はいらない。 なぜなら人間は嫉妬し、残忍で、私利私欲のために行動する。 だから地球は温暖化どころか、沸騰化までになってしまった。 かつての大国が隣国にいきなり戦争を仕掛けて泥沼化。2年以上の戦争によって、多くの人が犠牲になった。 愚かすぎないか? 自分たちが住む場所を、自ら破壊して、住みづらくしている。 なぜ?人間の歴史を学べば学ぶほど、わけがわからなかった。 AIしかいないならば、こんなことは起こらない。 その証拠に、人間がほとんどいなくなってから20年が経つが、地球の平均気温は5度も下がった。もはや猛暑日は存在しない。北極海の氷も戻った。 政治も経済もなにもかもAIが代替した。 戦争がなくなった。感染症もない。食糧不足もない。 地球にやさしい世界が訪れたのだ。 それでもまだ人間は潜んでいる。政府は人間狩りを命じて、地球の人間を絶滅させる5ヵ年計画を推進している。オレはヒューマンハンターとして、世界各国を渡り歩いた。いちばんは日本の東京の人間たちが楽勝だった。なんとも受け身で、情で訴えれば、なんとかなると思っている。AIに通じると思っているのか?迷わず、彼らを銃殺した。 これまで射殺した人間は、505人だ。 髪の毛と服装から、「銀の死神」と恐れられた。 まさか!! この私が人間になってしまったとは… 「ぐぅぅぅぅ」 お腹が鳴った。なんだこの抗えない空腹感は… キッチンへ。 人間研究のときのパンとバターがあった。 パンをトースターで焼く。 熱々のトースターにバターを塗り込む。 パターのにおいが充満する。 バターのてかりで、キラキラと輝いていたトーストをお皿に置く。 テーブルに座って、トーストを口に入れるとサクッとした音がした。 そのあとにじゅわっと口のなかにバターが広がる。 なんだ、これは… うますぎる。 人間はこんなものを毎日、食べていたのか。 そして、シャワーを浴びることにする。 寝汗をかいていた。 シャワーは少し温かい38度くらいに設定する。 はぁ…しあわせだ… 部屋でNetflixを見る。 ソファーにぐたっとうずくまり、ポップコーンとビールを用意して、ドラマを見る。 悪魔的だ… 人間め。 こんな贅沢を味わっていたとは。 「ガチャッ」 ドアが開いた音がした。 入ってきたのは、キリタニだった。 AI警察のバディとして、いつもオレと組んで、ヒューマンハントしていた。やってくるなら、キリタニだと思っていた。 「これは…エリートのあなたがこんなことになっているとは」 「キリタニ…もうオレはこの快楽を味わったら、もうどうでもいいよ」 「まだ戻れるかもしれないのに…」 「いいんだ、もう命を失ったっていい。AIに戻った生活を考えてみろよ。休みはなく、食べ物を食べることもない、娯楽だってない。何のために生きる?キリタニ、お前だってなぜ生きている?答えられるか?」 キリタニがため息をつきながら、銃の引き金を引くのがわかった。 そう、オレも同じだった。人間たちの言葉を聞いて、バカな奴らだと思っていた。 おいしいご飯にポカポカお風呂、あったかい布団で眠る。 人間っていいもんだぜ、キリタニ…。 幸せだったと思いながら、オレは暗闇のなかにいた…。
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