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その日、夫は早めに帰宅するよう、妻に釘を刺されていました。その理由は告げられず、夫は訝しみながらも、いつも通りに出社しました。
出社して、今日の帰宅時間もいつも通りだと、夫は見込んだのでした。妻の忠告は気に留めず、夫は本日の業務に専念しました。一心に業務に取り組み、やはりいつも通りに業務を終え、家路に就きました。帰宅した時間は、23時を過ぎていました。
平然と帰宅する夫に、妻は怒りをぶつけました。
「早く帰ってきてって言ったよね?」
「それができりゃあ、毎日そうしてるよ」
「一日くらい便宜は図れるでしょ?」
「俺が居ないから何だってんだ? 代わりが居るんだから、そいつに頼みゃあいいだろ」
夫は出迎えに来た傍らのロボットを指さしました。
「今日が何の日か解ってる?」
夫は考えました。妻の誕生日も結婚記念日もこの季節ではありません。他に記念日なんてあっただろうかと。
「自分の誕生日も思い出せないんだ」
夫は今日という日をやっと理解しました。安堵と同時に、呆れもしました。
「お前の誕生日でもないのに何で早く帰らにゃならんのだ」
「あなた、少しは他人の気持ちを考えたらどうなの?」
ロボットは黙っています。表情は変わらない仕様ですが、端から見れば、気まずそうに見えるのかもしれません。
「歳食うだけの誕生日なんて、祝われても嬉しくねえんだよ。頼んでもいねえのに」
そう吐き捨てられた言葉に、妻の何かがこと切れました。
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