SINGULAR TRIANGLE

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「うるせえ! お前は黙ってろ」  夫はロボットを退けようとしますが、ロボットは控えません。 「旦那様、30歳のお誕生日、おめでとうございます」  ロボットは二人の間に割って入りました。  0時を過ぎました。日付が変わったのです。 「AI風情は空気も読めねえのか」 「旦那様は、人間の癖に思いやりが無いのですね」 「あ?」 「奥様が早くご帰宅されるように仰ったのは、旦那様のお誕生日会をするためです」 「そんなのさっき聞いたよ」 「奥様がどんな気持ちで旦那様をお迎えしようとしたのか、それを考慮しても本当に嬉しくないのですか」  夫は口籠りました。 「奥様にとって、旦那様はいなくていい存在なんかじゃありません。今日は、素直に愛情を伝え合うチャンスなのですよ」 「もういい。この男には私が要らないみたいだから」 「奥様、それは誤解です」  ロボットは、今度は妻の方を向きました。 「なにが誤解だっての? あっちこそ私に興味ないじゃない」 「数カ月前から、旦那様が通勤中の15分ほど、ワタクシは旦那様とメッセージをやり取りしておりました。そこで色々なお話を聞いておりました。お仕事での愚痴とか、奥様の事とか」 「私のこと?」 「旦那様、ワタクシ、奥様がお誕生日のお祝いをサプライズしたいと仰られた時、「奥様は隠し事をしていると表情や口調に現れてしまいますから、旦那様と接するときには、ご注意くださいね」という助言を呈してしまいました。そのことを旦那様に打ち明けるわけにはいかず、旦那様には、奥様にいつも通り接してあげてくださいと申し上げるしかありませんでした」  事実を知って、夫妻はお互いに顔を見合わせました。 「お二人の仲を私が裂いてしまう事になると思うと、自戒の念に堪えません。本当に申し訳ございませんでした」
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