スパイと宇宙エレベーターガール

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 人類の手が宇宙の先へと伸び始めたこの時代、先駆けて宇宙エレベーターの完成を目論んだ国は多い。地上と宇宙をつなぐ革新的な輸送機関。このイノベーションを独占した国が今後の宇宙開発を支配することになるのは疑うまでもないからだ。  各国が法整備や協定の締結に足踏みする中、ある国が独断で建設を断行。その後ついに完成させてしまったことを皮切りに、とある男たちが暗躍する時代が訪れる。情報収集のエキスパート、スパイだ。 「マジでこれが宇宙まで登っていくのかよ? 技術の進歩ってのは凄えなあ」  宇宙エレベーター内部に一人の男がいた。その内部を一言で表すなら、筒だ。円形の巨大な筒。まるで低めのビルの中身を全てくり抜いたような、殺風景な筒。  感心ついでにタバコを吸おうと火をつけた途端、『火気厳禁』を意味するアラームがけたたましく鳴り響いた。慌てて足の裏で火種を消し、コンタクト型デバイスを起動。ハッキングを行いアラームを強制的に解除する。 「おいおい、火駄目なのっ? そりゃそうか……」  事前準備を行っていて良かったと胸をなでおろす。周囲のカメラとネットワークは掌握済みであるので、ここでの異常が外部に伝わる心配はない。その証拠に、『不審者侵入』を意味するアラームは鳴らない。 「それじゃ、仕事に取り掛かろうか」  気を取り直すように呟く。仕事。それはこの宇宙エレベーターの仕様を解析してデータを盗むことだ。なぜそんな事をするかといえば、この男がスパイだからに他ならない。本腰を入れようとしたその瞬間、背後から声が聞こえた。 「珍しいお客様ですね」  即座に振り向くと、そこには少女の姿があった。少女の姿を模した、と言ったほうがいいかもしれない。長く伸びた白銀色の髪は腰元のあたりで几帳面に切り揃えられている。白いワンピースから覗く四肢は、触れれば溶けてしまいそうなほど儚い。白い絵の具が少女の姿を象ったような印象すら受けた。 「……人間じゃねえな」 「ええ、こちらのエレベーターの管理を任せられている自立思考型AIです。管理と言っても、大した権限は持ち合わせていないのですが。エレベーターガールのようなものだと思ってもらえれば幸いです」  こちらが黙ったのを見て何を思ったか、目前の少女は言葉を続けた。 「おや、貴方の母国では過去、エレベーターに搭乗して運転操作を担当する女性がいたと記憶しているのですが……データ違いでしたか?」 「いやなに、AI様は何でもお見通しなんだなと感心してただけだよ。ところで──」  微かな浮遊感。男が言い終わるのを待たずして、エレベーターは稼働を始めた。少女は相変わらず能面のような表情をしたまま、手のひらを上に向けた。 「それでは上に参ります」 ◆ 「おおおっ、待て待て!」  男は既に閉まってしまった扉に駆け寄り、こじ開けようとする。当然手遅れであり、どうにもならない。ピクリともしない扉に項垂れて恨みがましく少女を見つめた。 「そんな顔されても困りますよ、私が動かしたわけじゃありませんし。それに、この時間にエレベーターが稼働するのは事前に決まってたことです。下調べが足りないのでは?」 「知らねえよ! こちとらその情報がなんもないから遠路はるばる出張ってきてんだから!」 「それはそれは」  どこ吹く風と言った様子の少女に、筋違いと分かりつつも怒りをぶつける。男はついに観念すると、床にあぐらをかいた。 「こっから上までどれくらいかかんの?」 「目的地は高度3万6千キロメートル上空にありますので、おおよそ7日間といったところでしょうか。長旅になりますね」 「……途中停車は」 「ないです」  男はこめかみに指を置き、目まいを抑えるようにした。手持ちは僅かな飲料水と保存食のみ。7日間を凌ぐには心もとない。悠長にしている時間も惜しい。男は立ち上がると、周囲に何か使えるものはないかと探し始めた。  状況が絶望的と分かるのには、数時間もかからなかった。 「飯! 水! ゼロ!」 「今回の輸送は燃料系に限るようですね」  宇宙エレベーターは輸送機関だけあって周囲には多くの積み荷があったが、そのどれもが燃料やら金属部品やらで、腹を満たせそうな物は何一つなかった。再び頭を抱えた男を、少女は相変わらずなんの感慨もないような目で見つめる。 「……今更な上に、俺がいうのもなんだけどさ、お前って一応このエレベーターの管理者なんだろ?」 「ええ、まあそうですが」 「堂々とお前んとこの荷物物色してる奴がいるのに、傍観決め込んでていいのか?」  自身のことをエレベーターの管理者だと自称した少女だが、今のところそれらしい行動は見せていない。現に周囲の荷物を漁る男を見ても、何をするでもなく、言うでもなく、ただ静観するのみだった。 「逆に、どのような反応をするのが適切なのでしょうか」 「はあ?」  少女は遥か遠くの風景に思いを馳せるような表情をした。沈黙は、今まで意識してこなかったエレベーターの動作音を何倍にも増幅させて男の耳に届ける。少女は手繰り寄せるようにして言葉を紡いだ。 「実のところ、貴方が侵入してきた段階で私はそのことに気づいていたのですよ。すぐに緊急アラートを鳴らすべきだと分かりつつも、私はそうしませんでした。それが私の役目だと知りつつ、そうしなかったんです。なぜなんでしょうか?」 「……はあ」  自分から話を振ったとはいえ、禅問答のような質問が返ってきたものだから、男は戸惑った。戸惑ったまま、また沈黙が流れた。 「随分自由な思考が許されてるんだな。普通のAIだとそんなことを実行する以前に、考えることすら許されてないんじゃないか」  結局男の口から出たのは直接的な明言を避けた言葉であり、つまるところ、逃げた。若干の後ろめたさも感じたが、少女は気にした様子もなく答える。 「私を造った人は変わってましたから」  少女を開発した人物は、AIにも人権を与えるべきだと主張する思想の持ち主だった。AIがただのツールとして扱われる現状を憂い、造られたのがこの少女だ。人間のような柔軟な思考と判断を可能にするようなプログラムが施されている。   「まあ、余計なお世話だったんですがね。私はそんなこと望んでいませんでしたから」 「そんな言い方もないだろ。立派な考えじゃねえか」 「理想が実現していれば、そう言えるかも知れません。しかし実際のところは一介の科学者に世論を変えるだけの力があるわけもなく、私はこうして飼い慣らされてるわけですから」  相変わらず声も表情も平坦な少女だったが、なぜかその様子が切羽詰まっているようにも思えた。  自分のミスとは言え、見知らぬ少女と7日間宇宙トリップする羽目になった上に、今はなぜかその少女のカウンセリング紛いのことをしている。男は現実逃避にも似た感情を覚えるが、無視して今後の共同生活に支障が出てはたまらない。  なにより居心地が悪かったのは、生まれも境遇も種族さえも違うこの少女に、自分自身の過去を重ねて見ていることに気付いてしまったからだ。この業界に入る以前の男は同じように無気力で、かつ不可解だった。 「おまえの悩みを解消する方法なら一つだけ知ってるぞ」 「悩み、ですか。これはそんなに人間らしい感情なんでしょうか」 「語託はいい!」  また答えのない問いを投げかけられそうになったので強引に制する。男は自分の頭を掻きながら、調子が狂っている事を自覚していた。そもそも、迷える子羊を導くのは牧師の仕事であって、そういうのは自分のキャラではない。牧師とは対極な男の口から出るのは当然、牧師とは対極的な言葉だ。 「悩みを吹き飛ばしたいなら、今自分がいる環境ごと吹き飛ばせばいいんだ。開発者がムカつくならぶん殴ればいいし、ここが退屈ならエレベーターごとぶち壊せばいい」    今度は少女が戸惑う番となった。あまりに雑な解決法に顔を歪める。 「無理ならそれでいい。少なくとも俺はそのやり方しか知らん」 「とすると貴方は、いま言ったことを過去実行したんですか」 「そうだ。ぶん殴ったし、ぶち壊した」 「めちゃくちゃな……」  そこで会話は打ち切りだと言わんばかりに、男は食事を始めた。食事と言っても固形保存食を口に入れて少量の水を流し込むだけのものなのだが。しかし一方の彼女は会話を終わらせるつもりはないらしく、それからも何かに付けては話しかけてきた。会話に飢えてるのかもしれない。 「貴方は私が退屈そうに見えるんですか」 「そんなツラしてればそりゃな。しかめっ面が出来るなら笑うことだって出来るんだろ? ガキは笑ってりゃいいんだよ」 「そういうものですか」 「そういうもんだ。ま、こんな場所にずっといればそれも仕方ねえけどな」  簡素な食事を食べ終わると、男は大の字になって寝転んだ。よほど会話を終わらせたくないのか、少女は相変わらず言葉を投げかけてくる。 「あー、悪いな。俺たち人間は不便なことに、喋れば体力を使うし、定期的に寝る必要だってある。これっぽっちの食料で7日間生きていく羽目になった俺を可哀想に思うなら少し休ませてくれ」    床に広げた数少ない食料を指差し、おどけて言う。最初は不服そうだった彼女も渋々受け入れ、今は自分の考えを整理することに夢中なのか大人しくしている。男は寝転び、少女は思索にふけ、いくらかの時間が流れた。窓も何もないこの部屋では時間間隔が狂う。上体を起こして男が腕時計を確認すると、ここに閉じ込められてから半日が経とうとしていた。   「今どこらへんなんだ?」  知ったところで別にどうにもならないのだが、聞かずにはいられない質問だった。 「気になるなら見てみますか」 「見る?」  言葉の意味が分からず男が疑問符を浮かべていると、答えを示すように少女はデバイスの操作を始めた。するとすぐに、軽快な動作音とともにエレベーター内の四方八方の壁が左右に開かれ、ガラス窓が出現する。巨大な窓は外の景色をまざまざと映し出した。 「おお。……こんな状況でもなければ、素直に感動出来たんだがな」  暗闇に無数の光を垂らしたような星空が周囲を取り囲み、下方には雄大な地球がその存在を主張している。単に宇宙旅行にでも来ているならさぞ素晴らしい光景なんだろう。しかし、それも今ばかりは話が違ってくる。地球との距離が遠のけば遠のくほど、これから先を案じる男の憂鬱な気持ちは加速していった。 「お気に召しませんでしたか」 「いや、良かったよ。折角なら窓はこのままにしておいてくれ、いくらかの退屈しのぎにはなりそうだ」 「貴方はいま退屈なんですか?」  質問を受けて、男は少し間の抜けた顔をした。唐突かつ直球な質問だったからというのもそうだが、少女の声が今までにない生気を帯びているような気がしたからだ。どこか遠くを見ているようだった少女の目線は今、しっかりと男の目を捉えている。 「ああ、退屈だな。出来ることなら今すぐに地球へ帰りたいくらいには」 「……その望みを叶えることは難しいですが、私の知識で少しは楽しませることが出来るかもしれません」 「そりゃいい。何をしてくれるんだ」 「宇宙ガイドです」  そう言うと、少女は右方にある窓へと向かった。小走りで窓に駆け寄り、振り向いて視線でこっちに来いとアピールしてくる。その様子があまりに見た目相応だったので、男は思わず頬をかいた。この少女にとってここから見える風景はお気に入りなのかもしれないと勝手に想像する。 「生憎と学がないもんでね。初歩の初歩から教えてもらえると助かるよ」 「ええ、勿論です」  三次元に広がる星は圧巻の一言だった。あれはべテルギウスで、あれがリゲルで、というふうに少女が丁寧に説明する。男は頭の中で線を結び、少女が話す星座のトリビアに耳を傾ける。会話こそ多くないが、穏やかな時間だった。 「それで向こうに見えるのがプロキオンで、冬の大三角を形成しているものの一つです」 「ん、なんだアレ」 「だから、プロキオンで──」  少女の言葉は途中で途切れた。それが意味することは、少女にもアレがなにか分からないということだ。二人の視線が集中するのは窓の先、一点の光。他の星より一際大きく、熱を持ったように赤いソレ。  瞬間、エレベーターが大きく揺れた。次にくぐもった爆発音が轟いた。瞬きの間に飛来した何かが原因だと分かるのには時間を要した。それほどに一瞬だった。  突如として身を襲う浮遊感。エレベーターが上昇しているからではない。落下しているのだ。 ◆  鳴り響くアラートが異常事態であるという事実を嫌というほど主張する。 「なんだ、何が起こってる!?」  強い揺れによって周囲の荷物が散乱する。ドラム缶から液体が漏れ出て、唯一の食料を台無しにしたが、そんな事を言っている場合ではない。  少し経って揺れが収まったかと思えば、今度は強い浮遊感が襲ってくる。体が持っていかれないよう体勢を維持するのがやっとだ。 「……恐らく、スペースデブリでしょう。宇宙エレベーターのどこかに衝突してしまった可能性が高いです」 「ツイてないどころじゃねえぞ!」 「不運というのもそうですが、通常時であれば回避できた事故でした」  この宇宙エレベーターはスペースデブリに関して対策がなされている。小さなものであればそもそも影響はないし、大きなものであっても機体を加減速させることでエレベーター本体にダメージがいくことはないようになっている。今回は男がエレベーター内のネットワークを遮断しているがために、通信が正常に行われずにこのような事態に陥っているのだ。  少女が滔々と説明すると、男は天を仰いだ。 「つまり?」 「貴方のせいです」 「クソッタレ!」  男が窓を見やると、先程とは対称的に、今度は自分たちが地球に近づいていることに気がついた。 「これはどういうわけだ」 「我々は今、落下しているのでしょう。それも凄まじい速度で」 「なんでそうなるっ」 「衝突が上昇の運動を殺し、爆発によって下方向への運動エネルギーを生み出したかと思われます。そうなれば、ここ宇宙空間では等速で落ち続けます」  少しばかりも焦った様子を見せない少女を見ると、男の方まで緊迫感が削がれた 「これからどうなるんだ」 「この様子だと数分で大気圏内に突入すると予想されます。すると機体は更に加速を始めます。一応安全装置が取り付けられていますが、勢いを殺しきれる望みは薄いです」 「そうなると」 「……ええ、生還は厳しいでしょう」  そこで初めて、少女は声色を変えた。ギリギリと金属同士が擦れる不快な音が耳をつんざく。部屋の温度が増していく。絶望的な空気を振り払うように、男は顔を歪めて軽口を言った。 「はは、いっそのこと落ちる瞬間にジャンプでもしてみるか」 「それは現実的ではありません。衝撃を殺し切るには落下の速度と同等の速度で飛ぶ必要がありますし、そもそも落下中のエレベーター内では床に踏ん張ることが困難なので──」 「分かってる分かってる、冗談だ」  降参だというように手を挙げる。ついにエレベーターは地球近くまで差し掛かろうとしていた。  自分の命は惜しくない。こんな仕事をしていれば、いつその時が来てもおかしくない。それが今日だっただけの話だ。しかし、この少女は違う。無関係な人物を巻き込んでしまったという事実が、男の胸に重くのしかかる。  こんな行動で報いることは決して出来ないが、男は少女に向き直ると深く頭を下げた。 「すまん。お前を巻き込んだ」  少女は目を見開くと、おかしそうに笑った。まさかこの状況で笑い声が聞こえるとは思わなかった男が顔を上げると、少女と目が合った。 「慣れないことしなくていいんですよ。心配せずとも私は人間ではありませんので、死を恐れることはありません」  男は面食らった。許されたからではない。薄く笑う少女が人間味に溢れ、その物言いが慈愛に満ちていたからだ。初めてあった時の様子とは大きく違う。自惚れかもしれないが、少しは自分に心を開いてくれたんだろう。その事実が余計に男を苦しめた。 「死を恐れることはありません。しかし、惜しい気持ちも少々あります。短い時間でしたが、貴方と過ごした時間は楽しかった。欲を言えば、もう少しお話をしたかったです」 「あと数分はあるぜ」 「それはいい! それまで話していましょう」  手を叩いて話題を探している少女を横目に、男はタバコを取り出した。死に際くらいには一本吸いたいと思ったのだが、ある疑問が頭に浮かんだ。 「今って無重力だよな。タバコ吸っても大丈夫なのか?」 「無重力空間でタバコを吸うこと自体は可能ですよ。しかし今は自重したほうがいいでしょう、エレベーターが衝突する前に爆発で死んでしまってはやるせないですから」  少女は床を見ながら冗談めかして言う。そこら中に先程の揺れの影響で散乱した固形燃料や、漏れ出た液体燃料の類があるのだ。誤って火の元でもついてしまえばどうなるかは想像にかたくない。  すると、男は突然黙り込んでしまった。どうしたのかと少女が問うと、男は閃いたように口を開いた。 「いや、タバコを吸おう」 「……私の話、聞いてました?」  少女は呆れたように言うが、男は時間が惜しいと周囲の物色を始めた。 「すまん、話は今度だ。生き残った後でいくらでもしてやる」  少女が状況を飲み込めずにいると、また強い揺れが二人を襲う。大気圏内に入り、安全装置が起動したらしい。重力と慣性力が互いに打ち消し合うことで、エレベーター内は無重力状態が維持される。  男は目当てのものを見つけた。それは二枚の布だ。からだ全体を覆い尽くせるほどの布。燃料系の積み荷の近くにあったものなので、不燃性のものであると見当をつけた。かなり分厚く頑丈そうなそれを少女に手渡すと、計画を話し始めた。 「よく聞けよ、話は簡単だ。火をつけて、ジャンプする、それだけだ。落下の衝撃を殺すには、それと同じ速度で飛べばいいんだろ。今の無重力状態ならそれが出来る」 「……残念ですが、無茶です。不確定要素が多すぎます。成功する確率は1%にも満たないでしょう」 「何もしなけりゃ0%なんだ、上等だろ。それにだな、こういうときの俺は運がいいんだ。信じてくれ」  少しでも速度が足りなければ駄目。上回っても駄目。そもそも、爆発の火力が高すぎればその時点で体が持たない。タイミングを間違えれば全てが無駄に終わる。成功する確率など万に一つもない。複合的な条件が重なり合い、それぞれが絡み合うような奇跡が起きない限りは。  それでもなぜか、男はその可能性を信じて疑っていない。  ならば、と少女は思った。私も信じよう。 「カウントダウンはお前に任せた」  丁寧に布にくるまった少女に、男は上から残りの水を被せた。「わぷっ」と驚いた様子で肩を弾ませたので思わず笑うと、少女は目を半開きにしてこちらを睨む。  刻一刻とそのときは迫る。男は少女の体を抱き寄せ、少女は男に身を預けた。 「3,2,1──今です」  二人が同時に地を蹴る。次の瞬間、爆風が二人を包んだ。 ◆  宇宙エレベーター本基地。そことは離れた場所に二人の男女がいた。 「そういや名前聞いてなかったな。なんていうんだ?」 「今更ですか。ハクです。あまり好きな名前じゃないですが」 「いい名前じゃねえか。俺はジンだ。よろしくな、ハク」 「ジン……いい名前ですね。よろしくおねがいします、ジン」
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