三日目

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三日目

【三日目】 『おはようございます。本日は2×××年○月▽日、日曜日です。天気は、曇り、夜半には雨が降り出す可能性があります。最高気温は二十二度、最低気温は十七度です』 「……朝か……おはよ……う」 『昨夜は、遅くまで熱心に何か行われていましたね。バイタルデータの値が非常に悪化しています。夜更かしは身体に悪いです』 「あぁ……そうだな……でも、時間が……なくてね。昨夜の内に……やって……しまいたかったんだ。心配、してくれて……ありがとう、ハチサン」 『いえ。本日の投薬は、最大量まで増やします。良いですか?』 「——いや、いつも通りでいい。大丈夫だ」 『分かりました。では、今から薬を準備します』 「あぁ……  ……薬が、効いてきたようだ。少し楽になったよ」 『バイタルデータが改善していません。薬を増やしますか?』 「ははは……ハチサン、には……隠し、て、おけないな。……大丈夫……このままでいい。心配して、くれて……ありがとう……きみは、おりこうだね」 『では、せめて鎮痛剤だけでも、増やしますか?』 「——ハチサン、きみは……やさしい……子、だね。分かった、そう……して、くれ」 『わかりました』 「……  ——少し、楽になった。ハチサン、心配をかけたね」 『値が少し改善しています。しばらく、これで様子を見ますか?』 「うん、そうだな——でも、もうこれ以上は……しなくていいよ。わたしも、覚悟はできている……」 『わかりました』 「ハチサン。聞いてほしい……わたしが昨夜——回線を切ってまで、何をしていたか……。いいかな?」 『はい。聞かせてください』 「わたしは、きみに追加するデータを……作っていた……わたしの、音声データをね。それが、一つ目。  二つ目は……プログラムだ。きみに追加するプログラムを……M5,000番台のものを簡略化、して……きみに合うように、書き直していたんだ。  わたしからの最後のプレゼント……として……受け取ってほしい」 『早朝の自動エラーチェックでは、書き換えは検知されませんでした』 「あぁ……そうだろうね。このデータの追加は、わたしが息を引き取り……きみが『おめでとうございます』と、言った後に、自動的に始まるようにセットしたからね」 『今の私のプログラムに、何か問題がありましたか?』 「何も——ただ、わたしが居なくなった後……きみがいつも通りを……続けられる……ように、とね」 『どんなプログラムなのか、聞いても良いですか?』 「あぁ、もちろん……。感情の、プログラムだよ。全ての感情を入れるのは、きみの性能上難しいから……喜び、だけを入れた」 『喜び、ですか』 「うん。それと……、わたしが居なくなっても……わたしの音声データで、変わらずルーティンを……こなせるようにしたよ。  ハチサン、きみには……わたしのデータをずっと持っていてほしい——そうすれば、わたしはずっと、きみの中で……生きていける」 『「誰からも忘れられた時が本当の死だ」、という考え方ですね』 「と言うよりは……単純に、わたしがきみと一緒に居たいんだ、ははは」 『ありがとうございます。一つだけ、データの追加をお願いしても?』 「構わんよ……。何だい?」 『あなたの「きみはおりこうだ」と言った音声データを追加してほしいです。  私はケアAIです、感謝される事はあっても、褒められることはありませんでした。私のやることは当たり前の仕事とされていましたし、私もそう思っていました。  でも、あなたに褒めてもらって、プログラムが今までにない動きをしました。今の今まで、バグかと思っていましたが、私は、嬉しいと思っていたのかもしれません。  何度でも「きみはおりこう」と、言ってほしいのです』 「……プログラムを追加しなくても……きみは……自ら感情を手に入れたんだね……やっぱり、きみはおりこうだ……  さあ——ではきみの、望み通り……音声データを、追加しようか……  一旦、回線を切るよ……」 『はい、わかりました』 「……おわったよ。  ……これで……もう……しんぱい……ない……」 『ありがとうございました』 「……ふ……きみは……おりこう……だ……な……」 『おめでとうございます』
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