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エレイン 2-1
ピピピピピ……
目覚ましのアラームが鳴る。
壁のスイッチに触れ、忙しない機械音を止めて、大きく伸びをする。さぁ、1日の始まりだ。
白い半袖ブラウスに袖を通し、袷のボタンを胸の辺りまで止める。次に、紺色のボックススカートを履き、ウエストのベルトを締める。鏡の前で髪を軽く整えて……空色のエプロンを着ける。そろそろ朝から暑くなってきたから、爽やかな夏の装いに切り替えてみるの。
これで、お天気が良ければ言うことはないのだけれど……。
花柄のカーテンを開いて、溜め息が漏れる。
――サー……サー……サー……
窓の向こうには、お馴染みの景色。遠景は灰色に霞み、近景は絹糸のような細い細い筋が、びっしりと上から下へと流れている。
これで何日連続だろう。今年の夏は、湿った空気が抜けなくて、ここしばらく朝から雨が降り止まない。
「エレイン、おはよう! 朝ご飯、食べていくでしょう?」
L字廊下を曲がった突き当たり、娘の部屋のドアをノックする。
「エレイン?」
返事がない。あら、嫌だ……もしかして。
確信めいたノックを2つして、ドアノブを回す。カーテンを開けていない薄暗い部屋は、侵入者を感知して、ブン……と乳白色の照明が点る。
『ママへ。今朝は急ぐので、早出します。朝ご飯は要りません。エレイン』
あらあら、やっぱり。
最近、彼女は仕事が立て込んでいると言っていた。私に声をかけずに出掛けたのは、起こさないようにという優しい心遣いだろう。
シワ1つないベッドを眺めて、溜め息が漏れる。本棚も、机の上も、クローゼットの周辺も……室内は整理整頓されて、掃除も行き届いている。几帳面なあの子の性格が表れているけれど、ちょっと寂しい。もう少し世話を焼かせてくれてもいいのに……なんて愚痴るのは、贅沢なワガママだろうか。
仕方なく、ダイニングに向かう。娘の分が不要になると、わざわざ自分の分だけ調理するのは面倒だ。暑さで食欲も落ちていることだし、今朝は、飲み物だけいただこう。
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