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転生完了
漸くカプセルが開く。数日前から目は覚めていて、かなり退屈な時間を仰向けのまま過ごしていた。
起き上がろうにも、身体が思うように動かない。外界に出る前にリハビリが必要みたいだ。
機器から流れる音声案内に従って、暫くストレッチや体操を行う。モニターもあるから動きが解りやすい。ラジオ体操なんて何年振りだろうか。
徐々に体が軽くなったところで、音声案内が傍らの引き出しに私を誘導した。そこを開けてみると、私の持ち物の他に、USBメモリーが1つと、車の鍵が置いてあった。
USBメモリーをスマホに挿し込むと、1件のメッセージと沢山のデータが収められていた。宇佐川さんからのものだった。
「山先クイナさんがこれを読んでいるということは、千頭和ヒタキさんの記憶の継承に成功したということでしょう。お疲れ様でした。まだ身体が慣れていないと思いますので、無理な運動は控えてください。
私が犯した禁忌に研究機関が勘付きました。この場所が知られるのも時間の問題かもしれません。私はこの世界に居られなくなりましたので、SYSMARの研究は山先クイナさんに託します」
つまり、あれは正夢ということだったのだろうか。
メッセージには続きがあった。
「千頭和さんの記憶を読み込んだサーバーに、今度は私の記憶を上書きしておきました。分からないことは、USBメモリーの情報を頼りにサーバー経由で質問してください。AI化された私が答えます。
このような形になってしまい、申し訳ございません。では、来世で逢いましょう」
私はSYSMARの照合を確認する。残るは5人。その中に、「山先クイナ」の名も入っている。
重い扉を開け、ほぼ一か月ぶりの戸外に出た。外の光は眩しく、風は思いの外強かった。
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