1日目

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1日目

 研究室に宿直し、浅く短い仮眠を取って朝を迎えた。照合は、残り約887万人まで来ている。  数時間の照合で、これだけ絞り込まれたのは大きい。しかし、これはまだ初めに過ぎないからだ。絞り込まれていくほど、識別の難易度は増していく。だから、照合の速さは遅くなっていく。  SYSMARの事は保留にして通常研究に打ち込みたいところだったが、そうは行かなかった。私(達)の大それた研究は、諸々の機関の認可の下で行われている。だから、報告要請がひっきりなしに訪れるのだ。  研究という名目上、仕方のない事ではある。だが、実際に千頭和さんを生き返らせる段階になった時、それは極力ひた隠しにしておかなければならない。 「記憶の引き継ぎって、倫理的にどうなんですか?」 「記憶というものが、脳内と電子デバイス内でどういう異なりを見せるかに依るでしょうね」 「つまり?」 「記憶って、曖昧なものじゃないですか? 計算とか暗記とか、答えの確定しているものならまだしも、経験に基づいて覚えているとか知っているとかの奴は、どちらかというとイメージに近いんです。私が胎内記憶をぼんやりとだけ覚えているように」 「それをデータに書き出すことはできないんですか?」 「やってみないと判りません。それに、そんな不確かなものを来世で受け取るには、あまりにも連携が脆いです」 「死ぬ前と生まれた後の人間を照合させるのは難しいってことですか?」 「はい。他人の記憶が移植されてしまう危険性が高過ぎます。前世の記憶媒体を来世に継承する連携方法はあるのですか? 脳科学的に」 「AIに照合させるんですよ。記憶情報から読み取らせて」 「AIの精度は良いでしょうけども、人間の記憶だけでは、情報が足りないのではないでしょうか?」 「思い出せない全ての記憶を照合させれば、行けるんじゃないかと」 「思い出せない記憶?」 「人生何億周目?なんて言われる人もいますが、実際、前世の記憶が無いだけで、大抵の人間は何周も人間を生きています。その記憶も脳に眠ってるはずなんです。それを宇佐川さんの研究を生かして電子デバイスに書き写す。その記憶を読み込ませた人の死亡数十年後、そろそろ生き返った頃合いかなってところで、全人類の情報とその記憶電子デバイスをAIに照合させる。そしたら、可能な限り絞り込めると思います」
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