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3日目
SYSMARの起動から3日目。照合は97万人にまで絞り込まれた。その97万人の分布状態はワールドマップで確認できる。分布密度を見るに、やはり先進国に密集している。その中でも、日本に分布している割合が多く見える。或る程度の記憶を保持したまま生まれ変わった千頭和さんなら、また日本に生まれることを選ぶだろう。
SYSMARの名は、今や世界中に知れ渡っている。記憶が来世に引き継げるなんて、これほど画期的な技術、誰もが興味を持つのも無理はない。
悪用される可能性もある。だからこそ、この研究は私も含めて厳重に監視されているのだ。
「シスマー?」
「そう、SYSMAR。The System of Succeeding Memory After Reincarnationの略です」
「つまり、転生後記憶継承システムですか」
「千頭和さんから読み取った記憶情報を、この機械に解析させます。先ずは記憶を電子デバイスに書き写すのですが……」
「脳の容量って数ペタバイトですよ? そんなストレージのファイルサーバーなんて用意できるんですか?」
「情報工学科の総力を結集させます。正確な記憶容量が読めないので、用意できたサーバーが足りなければ、記憶の取捨選択が必要かもしれませんね」
「取捨選択か……。来世には、どんな記憶が必要なんでしょう。死んだ母の事とか、来世では要らない思い出なのかも」
「千頭和さんの病状が悪化しないうちに、現状の記憶だけでも近々書き写しを行おうと思います。脳を機械に繋ぐので、2、3日眠っていただくことになりますが」
「ええ、覚悟の上です」
「分かりました。あと、SYSMARの起動設定を予めしておこうと思うんです。所定の日に自動で起動するように。これは、千頭和さんの没後どれだけが適切なんでしょうか?」
「あくまでも私の理論なんですが、20年と50日です」
「……それはどういう?」
「人が亡くなった時、四十九日間供養するというでしょう? その期間は中有といって、人が死んでから次の生を享けるまでの期間なんです。つまり、没後50日目には、既に転生している可能性が高いのです。そして、人はまた人生を1から歩み、人格と進路が形成されていきます。それらが定まってくるのが20年くらいと見ていいでしょう」
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