経過

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 SYSMARの起動から5日目。照合は38万人にまで絞り込まれた。7日目には9.5万人。20目には8,902人。2か月で1,610人にまでになった。順調に該当者の数は漸減している。  SYSMARの起動から3か月。残りは783人。照合速度はかなり遅くなっている。識別の難易度が上がっているようだ。  そうこうしている間に、研究の詳細が世間にも知れ渡るようになった。研究に期待が掛かる一方で、その実用を不安視する声も高まり、記憶継承研究の進行はより慎重、厳重に行うよう圧力が掛かった。  保護の観点から、私の動向も管理下に置かれ、更に記憶の継承段階に持ち込みにくくなった。監視の目を盗んで、郊外にその施設を設えていくのがやっとのところ。最後の一人にまで絞り込まれたら、その情報は直ちに研究機関一帯に拡がるだろう。そして、その人の管理監視も厳重になる。どうしたものだろうか。  SYSMARの起動から4か月。照合が387人にまで絞り込まれた。この時点では、一日に弾かれる人数は数人程度だった。  そして5か月。残りは57人となった頃だった。30年以上前に卒業した大学で、研究に関する諮問会が行われることになり、私は母校に赴いた。  現状の照合状態や今後の展望なんかを坦々と報告し、久し振りに緊張感のある場に臨んでいた。それを終えた先に、各所の報道機関に待ち伏せされており、当たり障りのない応答をして何とか逃げ切った。それを終えても、大学教授達に目を付けられれば何かと話が始まり、休まる暇の無い一日だった。  日が暮れて、自宅に帰ろうとした時、今度は大学生に話し掛けられた。駐車場まで追い掛けてこられたのには少々驚いた。 「宇佐川さんですよね?」 「そうですが?」 「私、山先クイナと申します」  疲れていたから、知りもしない学生を相手にするのは面倒だった。私はここの大学教授ではないから、要件はメールしろとも断れない。 「単刀直入に申し上げます。私、千頭和ヒタキの生まれ変わりなんです」  この手の法螺吹きがいることは今に始まったことではない。ならば慎重に見極めなくては。 「自分の中での前世の記憶が朧気だったのですが、高1の時にSYSMARの存在を知り、色々と思い出しました! つまりその、いつか宇佐川さんに逢えるのではないかと思い、この大学に入学してきたんです!」 「今の君に、千頭和さん時代の記憶はどれくらい残っているのかね?」 「結構、自信あります!」 「それじゃあ、テストしてみようじゃないか」
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