元 千頭和ヒタキ

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元 千頭和ヒタキ

 宇佐川さんは40分車を走らせ、閑散とした郊外の奥まった施設に私を連れて行った。感動の再会を果たした私達の会話は、やむなく到着をもって終わりを迎えた。 「では、改めて。山先クイナさん。私は、貴方を千頭和ヒタキさんの生き返りとして認定します。貴方は、千頭和ヒタキさんの記憶を継承するということでよろしいですか?」 「はい」 「現在、記憶の継承はご法度とされており、それを行った貴方の今後の人生は、大変険しいものになることが予想されます。それでも、千頭和ヒタキさんの研究も継承する意志を持って、今後の人生を歩まれる覚悟がありますか?」 「4年前から、そのつもりです」 「分かりました。私が責任を持って、貴方に千頭和ヒタキの記憶を継承させます。デバイスに記憶を書き写した時よりも、記憶を脳に移転させるには長らく時間が掛かります。数週間、こちらの施設で眠っていただくことになりますが、よろしいですか?」 「大丈夫です」 「ありがとうございます。ご両親への説明、山先さんのお身体の保管など、諸々の事は私がやっておきますので、安心してお眠りください」  時間が無いのだろうか。私の記憶の継承はとんとん拍子に進んでいった。  カプセルの様なものの中に寝転び、頭にそれっぽい機械を装着していく。千頭和ヒタキの記憶をデバイスに書き写した時が鮮明に思い出されて、懐かしく感じた。 「では、山先クイナさん、改め、千頭和ヒタキさんのお目覚めを、未来でお待ちしております」 「はい。お願いします」  カプセルの蓋が閉じられ、周辺の機械が動き出した。  脳に電撃が走る。ちょっと痛みを感じるけれど、眠ってしまえばそれは夢に変わっていた。  電撃を食らいながら数週間見る夢は、非常に長く感じられた。SYSMARの研究を引き継いだ私の人生は、きっと穏やかなものにはならないだろう。私は、禁じられた記憶の継承を行った世界で唯一の人間なんだ。好奇の目に晒され、悪人の私利私欲に塗れた手に掛かるかもしれない。それでも生き抜いていくと、前世から決めていた来世の現世だ。私が人間の記憶を司る研究者になってみせるんだから。  夢の中で、宇佐川さんが死ぬ描写を見た。私が眠っている間に実世界がどうなっているのか気になるけれど、記憶の書き込みが完了するまではカプセルから出られない。夢のままならいいのだけれど。
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