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15歳になったアンディは村で薬屋みたいなことをするようになっていた。というのも、近くの森の奥深くに住む魔女がまともに話せるのは未だにアンディだけだからだ。
数年前、アンディが森の奥に迷い込んで魔女と知り合って依頼、人見知りの魔女はアンディになついている。村人たちもアンディの説得と実際の魔女の姿を見ることで子どもを中心に魔女を怖がらなくなった。
けれども、魔女の方はなかなか上手く話せず、薬の説明などでたくさん話す必要がある時はアンディに向かって話すので、自然とアンディが担当のような形になっていた。
それに村人の中にはまだ直接会うのは怖いと言う人も少なくない。特に薬の必要なお年寄りほど、魔女を怖がっている。いづれにせよ仲介人は必要だった。
その日もアンディは家に来たお年寄りに魔女の薬を売っていた。
「いつもありがとうねぇ」
「ううん。お大事にね」
膝が痛いと痛み止めの薬を買っていく彼女が杖をつきながら帰るその後ろ姿に、アンディは思わず声をかける。
「ねぇ!……あの、ウィローに診てもらったら……?」
ウィローというのは例の魔女の名前だ。痛み止めを飲み続けるより、魔女に直接診てもらって、もっと根本的に効果のある薬を作ってもらった方がいい。そう思っての提案だった。
けれども、彼女は振り返りもせずに首を横に振る。
「アンディには悪いけんど、あたしゃ魔女ってのは怖くてねぇ……。薬を売ってくれんのはありがたいけど……会う勇気はとても湧かないよ」
「そっか……」
頭ではわかっていても恐ろしいものは恐ろしい。それが彼女たちお年寄りの思いだった。どれだけウィローがいい魔女でも、魔女=恐ろしいものと刷り込まれてきたお年寄りたちは簡単には受け入れられない。
そのことはアンディもわかっている。だから決して無理強いはしない。それでも。それでも、いつかお年寄りたちに撫でられて笑うウィローが見たいと、そう思わずにはいられない。
「アンディ!!」
杖をつきながら再び歩き出してゆっくり帰っていく彼女をアンディが見送っていると、そこにアンディの友人のオリバーが走ってきた。
「助けてくれ!!じいちゃんが!!」
必死の形相でアンディの肩を掴むオリバーが言うには、彼の祖父が盛大に転び、咄嗟に地面についた手があらぬ方向へ曲がってしまったらしい。
いくらお年寄りとは言え、手首の骨折なら死ぬわけではない。それなのにこんな風に取り乱して大騒ぎするオリバーは、大層な家族思いでいい孫だと、アンディは自分の方がふたつ年下の癖に親戚のおじさんのようなことを考えていた。
魔女は人見知りで恥ずかしがり屋の少女だけれど、時折なんだかお年寄りみたいなことを言うものだから、そういうのがアンディにもうつってきたように思う。
「ウィローのところへ行ってくるよ。とりあえず手を胸より高く上げて、何かまっすぐで硬いものを副えて固定して、安静にしておいて」
「わ、わかった。……ええと、胸より上、硬いもの、固定、安静……胸より上、硬いものが固定、安静……胸より上が硬くて、固定が……?」
「……書いて渡すね」
薬を売るに当たって、というのもあるけれど、アンディは魔女の話を聞くうちにすっかり応急処置なんかに詳しくなっていた。
メモ書きなんかを何も見ずに出した指示を、オリバーが指を折りながら繰り返し呟いて覚えようとした。その呟きは段々とおかしくなっていく。
なんだか少しばかり不安になって、アンディは応急処置をメモに書いて彼に渡した。
薬屋の看板を『close』にして、アンディは早足で魔女の家に向かう。死ぬわけではないけれど、本人は酷く痛いはずだし、心配でどうにかなりそうなオリバーのためにも早く何とかしてあげたい。
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