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森の奥深くにある、黒い家。それが魔女の家だ。この家からはいつもお菓子の匂いがする。そういえばちょうどおやつ時だ。
アンディはいい匂いに思わずニヤけそうになった顔を引き締めて、扉をノックしてからそっと開ける。遊びに来ている子どもたちのはしゃぐ声が聞こえた。
「ウィロー、こんにちは」
「あ……アンディ……こんにちは」
「あれ?アンディだ!まだおやつの時間だよ!?」
アンディは声と匂いの元であるダイニングに顔を出した。いつもならまだ村で仕事をしている時間だ。珍しい時間の訪問に、お菓子を食べていた子どもたちが目を丸くした。魔女も驚いているようだけれど、そこには嬉しさと心配も見えた。
「なにか……あったの?」
「オリバーのおじいちゃんが転んで手をついて骨が折れたみたいなんだ」
「大変!」
アンディに会えて嬉しい。そんな魔女の浮かれた心は彼の言葉で吹き飛んでしまった。跳び上がって驚いた魔女はダイニングを飛び出し、急いで薬の保管室に向かった。
骨折ならあの薬か、それともこっちの薬か、あっちの薬も必要だろうか。忙しなく保管室の隅から隅までを行ったり来たりしていたものの、ぴたりと足を止める。
「骨戻し薬が作れたらそれが一番いいんだけど……」
知識はある。材料もある。技術もある。作れない薬ではない。けれども、骨戻し薬は患者の症状や体質を確認した上で正確に作らなければならない。つまり、村に出向いて直接診なければいけないのだ。
基本的にはアンディが窓口となって薬を売ってくれているし、直接診る時は来てもらっている。診てもらいに来るのはほとんど若者で、魔女を怖がらない人だけだ。
けれども、骨折しているのはお年寄り。骨折している時点で来てもらうわけにいかないし、お年寄りたちは魔女を怖がっている。
「どうしよう……」
痛み止めや自己治癒力を助ける栄養剤をアンディに渡すことはできるけれど、骨戻し薬を作るのが一番いい。それはわかっている。でも怖い。魔女を怖がっているお年寄りたちの前に行くのが怖い。
いくつかの薬を持ったまま立ち尽くしている魔女に、戻りが遅いのを心配して見に来たアンディが声をかける。
「ウィロー?どうしたの?」
「あ……えと……」
魔女は自分の悩みが恥ずかしく思えて言い淀んだ。けれど、不思議そうに、心配そうに自分を見つめてくるアンディを見ていると、なぜだか勇気が湧いてくる。
「あ、あのね……私、村に行ってそのおじいさんを診て薬を調合しようと思って……その……そばにいてくれる?」
甘えすぎだろうか。魔女が少し不安になりながらアンディをうかがい見ると、彼は嬉しそうに笑っていた。
「もちろんだよ!村の人のために勇気を出してくれてありがとう!」
子どもたちだけにしておく訳にもいかないからと、遊びに来ていた子どもたちも連れて、アンディと魔女は急いで村に向かった。
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