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彼らが村に着くと、魔女の姿を見た村人たちの反応は様々だった。気軽に挨拶をする人、建前で会釈をする人、あからさまに警戒する人、想定より若く愛らしい彼女の姿に驚く人、逆に警戒を強める人、ひそひそと何か話す人。
魔女は俯いた。怖くて足を踏み出せない。村人たちから攻撃されるんじゃないかと怖かった。手足が震える。体が固まって冷たくなっていくような感覚がした。
「ウィロー」
アンディが手を握ると、そこからじわりと全身にぬくもりが伝っていく。魔女は恐怖で固まった体が溶けるのを感じた。
「あ……ありがとう、アンディ……も、もう大丈夫」
「……行こう」
自分が震えている間にもおじいさんは痛みに苦しんでいるはずだ。じっとアンディを見つめると、アンディは彼女の勇気を汲んで頷いた。魔女はアンディのおかげで少し軽くなった足で骨折したおじいさんのところに向かう。
おじいさんはオリバーに応急処置をされた状態で大人しく座っていたけれど、魔女の姿を見るとガタリと音を立てて立ち上がった。
「ま、魔女!何をしに来た!!」
「じいちゃん落ち着けって!」
彼女を警戒して家族を背中に庇いながら声を荒らげたおじいさんを、孫のオリバーが押さえて座らせた。
魔女は自分を見て騒ぐおじいさんに少し悲しそうな目をしたけれど、小さく首を振ると勇気をもって口を開いた。
「あ、あなたの……怪我を……な、治したく、て……あの……少し、診させて……ください」
「……忌々しい魔女が神官の真似事か。オリバーやアンディまで巻き込んで何を企んでやがる!」
悲しさや怖さを飲み込んで話す魔女に、それでもおじいさんは怒鳴った。けれども、そこにあるのは怒りではなく、警戒と恐怖と、困惑、そしてほんの少しの期待だ。
これなら説得次第では落ち着いてくれるかも知れない。アンディが口を挟もうとした瞬間、彼より早くオリバーが口を開いた。
「じいちゃん。ウィローはじいちゃんの骨が折れたって聞いてわざわざ来てくれたんだぞ。そんな態度取るのは失礼だ。失礼なことはしちゃだめだって、俺に教えてくれたのはじいちゃんだろ」
「うぐっ……」
孫からの説教に口をつぐんだおじいさんは、それでも警戒を解けずに魔女を睨み続けている。
魔女は勇気を振り絞っておじいさんの目をじっと見つめた。
「あ、あの……あなたの骨、の、状態を……診て……おくすり、つくりたい、です……」
何も企みなんてない。それを伝えたくて、魔女はただじっとおじいさんを見つめた。震える指先を、アンディの手がそっと包む。
出会った頃は同じくらいだったのに、いつの間にかアンディの手は魔女の手を包めるくらい大きくなっていた。
頼もしく優しいぬくもりに支えられながら魔女が見つめること数十秒。おじいさんは長く深い溜め息を吐いた。
「はあぁぁぁ……。わかった。魔女を信じることはできんが、お前を信じている孫とアンディを信じることはできる。……変なことはするなよ」
「じいちゃん……!」
「あ……ありがとうございます!」
害意がないことが伝わりおじいさんが魔女に折れた手首を見せると、魔女とオリバーはぱあっと顔をほころばせ、アンディはにこにこと笑った。
魔女はどこからか杖を取り出して、杖先で優しく患部に触れる。魔法で体内の骨の状態を確認する。
それはそよ風が肌を撫でる感覚で、なんだか亡くなった妻と過ごした日々を思い出して、おじいさんはわずかに目を伏せた。子供や孫を守らなければ。そうやって肩肘張って生きてきたけれど、こんなにも優しい魔法を使う魔女を疑う必要はあったのだろうか。
「……すまんな」
目の前の魔女にだけ聞こえるか聞こえないかの小さな声。呟いたそれに、魔女は安堵に潤んだ目を閉じてくしゃりと笑った。
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