魔女の処方薬

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 「す、すぐ作ってきます!」  魔女は患部の確認を終えると持っていた杖をホウキに変えて(またが)り、森の方へと勢いよく飛び去っていった。  おじいさんやオリバーは空高く消えていった魔女を呆然と眺めていたけれど、ハッと我に帰るとアンディに視線を向けた。おじいさんは気まずそうに目をそらしながら口を開く。  「……あんな若い娘だとはな。それに随分と俺たちを怖がっていた。魔法も優しくて驚いた。もっと意地の悪い老婆かと思っていた」  「何回も言ったでしょ?」  「ああ、悪かった。にわかには信じられなくてな……」  「まぁそうだよね」  無知によるものだとしても魔女が少し前まで悪いことをしていたことは事実。本当はいい子で、若い女の子で、なんて言われても信じられなくて当然だ。アンディは苦笑を浮かべた。  しばらくオリバーとおじいさんとアンディの3人で話していると、1時間もしないうちにホウキに乗った魔女が帰ってきた。けれども、なかなか扉をノックできずに家の前でウロウロしていた。  そこへ、アンディの次に魔女と仲良くなったアンディより3つ年上の女の子、マリーが通りかかった。  「ええっ!?ウィローが村にいる!?ど、どしたの!?」  「へぁ!?あ、あっ、えと……あの、こ、ここのおじいさんの、怪我を……」  「え!治しに来てくれたの!?ありがとうウィロー!あ、もしかしてノックするのためらってた?私がノックしたげる!」  ――コンコン。  「オリバー!おじい!」  「あわわわ……!」  マリーは魔女の心の準備なんてお構いなしにドアノッカーを鳴らして声をかけた。ガチャリ、と扉が開く瞬間、魔女は咄嗟にマリーの背中に隠れた。  「マリーうるせ……っと、早かったなウィロー。急いでくれたのか?ありがとな。……おかえり」  「!……た、ただい、ま……!」  物心ついた頃には独りで森の奥の家に住んでいた魔女は、おかえりのひと言に心がじわりと温かくなるのを感じた。瞳に感涙を浮かべながら、魔女は家に上がっておじいさんの傍に行く。  マリーはただ通りかかっただけのようで、魔女が家に上がるのを見ると満足気に頷いて去っていった。  「あ、お、お待たせ、しました!……お、おくすりです……!」  魔女は黒い袋からうっすら光る緑色の液体が入った小瓶を取り出して、おじいさんに差し出した。  おじいさんは液体の色に一瞬頬を引きつらせたけれど、折れてない手で小瓶を受け取った。  「ありがとう」  おじいさんが素直に薬を受け取ってお礼を言うと、皆が嬉しそうに頬を緩ませる。  「えっと、えと……それは、いつ飲んでも大丈夫、で……飲んだら、骨が治り、ます……」  「そうか」  「えと……治る、とき……ちょっと、痛い、かも……」  「ふむ」  魔女はおじいさんを見て、けれどもずっとは見ていられずに時々アンディを見ながら、薬の説明をした。  おじいさんは静かに頷くと躊躇なく小瓶を (あお)り、ぐいっと薬を飲み干した。  「うっ……!」  「じいちゃん!?」  薬を飲み干した途端に痛みで唸ったおじいさんの顔を、オリバーが心配そうに覗き込んだ。  おじいさんは手首の痛みに眉間にシワを寄せたけれど、その痛みは数秒で引いていく。完全に痛みが消えた時には、嘘のように手首が元通り自由に動かせるようになっていた。  「おお……治ったぞ!味はまずいし多少の痛みはあったが、こんなに一瞬で治るとは……お前の薬はすごいな!」  「おお!マジか!?すげえ!ありがとな、ウィロー!さすがだ!」  数秒で骨折を治してしまう魔女の薬の効力に感動したおじいさんは、最初の警戒をすっかり忘れたかのようにオリバーと一緒になって魔女を褒める。  「役に、立てて……よかった、です……」  小さくはにかみながら魔女がアンディに視線を向けると、彼は優しく笑って頷いた。
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