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アンディやオリバーに安すぎると叱られながらも、最低限のお金を受け取った魔女は、家に帰るためにまた杖をホウキに変えて跨った。
「そ、それじゃあ……えと、お大事に……」
魔女が地面を蹴ろうと足に力を入れた時、おじいさんが声をかけた。
「今まで本当にすまなかった」
「えっ」
「お前が改心……いや、以前のあれこれは無知ゆえだったと聞いた時、信じてやれなくてすまなかった」
突然の謝罪にきょとんとした魔女に、おじいさんは続けて言葉を紡いだ。
「あ、あれは……私が悪い、から……」
首を横に振った魔女に穏やかな笑みを向けておじいさんは更に続ける。
「今日来た時にも失礼な態度を取ってしまった。今までずっと悪く言ってしまっていた。すまなかった」
家の外で、他の村人たちに見られるかも知れないのに頭を下げるおじいさんに、魔女は慌ててホウキから降りて首をぶんぶん振った。
「あ、あああ頭、頭を上げてください……!わた、私、気にしてない、ですから……!」
「優しいな……」
あんなにも村人を怖がっていたのだ、気にしていないわけがない。それなのに気にしていないからと失礼を許す魔女に、おじいさんは目を細める。
「ウィロー、だったな」
「!……は、はい……っ!」
ずっと自分のことを「お前」と呼んでいたおじいさんから名前を優しく呼ばれ、魔女は声を弾ませて返事をした。
「また……今度は普通に、遊びに来るといい」
今までずっと自分のことを怖がり嫌っていた村のお年寄り、そのうちのひとり。たったひとりだけれども、おじいさんのその言葉は魔女にとって大きな喜びだった。
魔女は目に涙をたっぷり溜めて大きく頷くと、アンディさえ聞いたことのない、明るく嬉しそうな声で答える。
「はいっ!……ありがとう、ございます!」
ぺこりと頭を下げた魔女の目から涙がこぼれ落ち、地面に染みを作る。
顔を上げた魔女は無邪気な笑顔でアンディとオリバーとおじいさんの3人に手を振り、今度こそホウキで空高く飛んで森の奥の家へと帰っていった。
「……さて、明日からは森の魔女は可愛い孫だと言って回るとするか」
はっはっはっ。笑いながら家の中に戻るおじいさんを見て、オリバーとアンディは顔を見合わせて笑う。
「ウィローに優しくしてもらったからって、すっかり好きになってら」
「あはは、僕としてはウィローの味方が増えるのは助かるよ。結婚する時に反対されたくないし」
「けっ!?えっ!?んっ???」
「ふふふ」
さらりと牽制しつつ外堀を埋める彼の言葉に混乱しているオリバーを置いて、アンディは楽しそうに笑いながら自宅に帰ってしまう。
よく気にかけてはいるけれど、それはアンディが誰にでも優しいからだと思っていた。
村の誰にアピールされても気づいていなかったのに、もしかして気づいていない振りだったのか。色恋の「い」の字も知らない奴だと思っていたのに。
それに何より、あんなに純粋だったのに、いつの間に先に外堀を埋めるような性格になっていたのか。
「……はぁあああ!!?」
茜色に染まり始めた村に、オリバーの驚きに満ちた声がこだました。
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