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「遠野さん、あなたが考えているより、"こっち側"から見える壁は高いんですよ」
「望愛は絶対にそんな風には思っていないはずです」
やっと俺が話すことが出来た。
「…そうでしょうか? 今までは俺がいませんでしたからね。俺が帰ってきてそばにいて、望愛はきっと思い知る」
「遠野さん、俺のことが疎ましいでしょうね? 突然現れて自分の女をかっさらっていきそうで。でも、そうなったらあなたはそれまでの男だったってことですよ? それに…俺が連れ去らなくても、望愛は自分の意思で俺を選ぶ」
彼の自信たっぷりな表情に自分の顔が引き攣りそうになる。
「絶対に…そんなことにはなりません」
胸の奥から声を絞り出した。
冷静でありたいのに、さっきからずっと煽られているようで何度も奥歯を噛み締めなきゃならなかった。
「そうでしょうか? 俺にはそうなる光景がもう見えていますよ。望愛の考え方や行動は小さい頃からよく知っていますしね。そう、望愛のことならなんでも知ってますよ? 唯一知らないのは…大人になった身体だけ。それもそのうち―――」
ガタンと大きな音がして、それが自分が立ち上がって倒れかけた椅子の音だってことに気がついた時には彼の胸ぐらを掴んでいた。
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