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結局夕食は食べず、私の昼食となった。
朝、昨日叩かれたことが体に覚え込まれ篤の声の変化や近づいてくる手に体が強張ってしまった。
リモートで仕事をしてお昼は昨夜のハンバーグを温める。
篤が怖い。
人格が変わるほど忙しいんだろうか?
だから精神的に不安定なの?
スマホの連絡先リストをスクロールさせていくと会社を辞めてから連絡をしていなかった同期の連絡先を発見した。
ずっと連絡をしてないし、仕事を辞めてるかもしれない、いきなり電話とか迷惑かも。
でも、他に聞ける人はいないないし、もし仕事でストレスを抱えているのなら何かの力になれるかもしれないし
何度もアイコンに指が近づくがなかなかタップすることができず指が震えてくる。
電話をしてみて迷惑そうな感じがしたら謝って切ろう。そう決心してタップをした。
同期の井上詩さんは私より先に結婚していたから子供が出来て退職してるかも
心臓がドックンドックンと波打つ。
3コールしたところでやっぱりやめようと思ったら
『久しぶり』
え?「覚えていてくれたの」と思わず言葉が出てしまった。
『どうしてるかな?って思っていたよ』
「いきなり電話して迷惑じゃない?」
『大丈夫よ、懐かしいわ』
「忙しいよね」
『まぁ、いつも通りかな。それよりも、何かあった?』
何となく探るような口調に、いきなり電話して本当に申し訳なくなってしまった。
「えっと、主人がいつも帰りが遅くて仕事が大変だって言っていたから、それで、迷惑だと思ったんだけど会社の事を聞きたくて。本当にごめんなさい」
井上さんからの返事がなく、呆れてるかもしれないと思って電話をしてしまった事に後悔をした。
「あの、ごめんなさい。お仕事頑張ってください」
そう言って電話を切ろうとした時
『今日の5時過ぎに電話する。今かかっている番号でいいよね?』
「あの、無理をしなくても」
『大丈夫よ、じゃあ5時過ぎに』
電話を切ってため息をつく
「気を使わせちゃった」
井上さん、まだ働いてるんだ。
いいな・・・
温めたハンバーグを食べて食器を片付けた後、リモートで仕事をした。
仕事は好きだった。時々、無茶なことを頼まれたりするけど、その分達成感もあった。
何より、たくさんの人に囲まれて仕事をするのが楽しい。
部屋を見渡して、改めてこの部屋に一人ぼっちで、夫の帰りが遅くそして
叩かれた
あの時のことを考えると体が硬直する。
きっと今日も夕食は食べないかもしれないけど、自分の仕事として献立を考える。
テレビで見て味噌汁だまを作り置くようになって無駄がなくなった。
ナスの豚バラ炒めは下準備だけして帰ってきてシャワーの間に炒めればいい、冷奴と青菜のおひたしは小鉢に入れてラップをして冷蔵庫に入れた。
最近は篤の分だけ夜は準備をして自分はお茶漬けやおにぎりにして夕食を済ませてしまう。
一ヶ月くらいは一緒に夕食も食べてない。
朝食の時は怖くて何も言えなかった。
何かを言っていたかもしれないけど頭に入ってこなかった。
着信を知らせるバイブ音がなり画面を見ると井上さんだ。
本当に電話をかけてくれたんだ。
「ありがとう」
『何か悩みがあるんじゃないかと思って、本当は私も連絡したいと思ったけど迷惑かと思って出来なかったから』
そうなんだ。
「うれしい」
『気になったことを先に言っていい?』
「何?」
『今、社内ではノー残業デーがあるくらいだから、そんなに帰りが遅くなるのは変だなって』
「ノー残業デー?そんなのあるの?」
『やっぱり知らなかったんだ。北川さんって、今は中野さんでいいんだよね?』
どうして疑問形?
「中野だよ?」何故かわたしも疑問形になってしまった。
『今年の6月からノー残業デーができたんだ。それに、残業をしたとしても時間は短いはず』
そんな・・・ノー残業デーなんて聞いてない。むしろ、その頃から遅くなる日が増えてきた気がする。
「連絡したいと思ったのは?」
『うん・・・気を悪くしないでね』
心臓がうるさいくらいに鼓動する。
「大丈夫だよ」
『離婚とか別居をしてるのかと思った』
「え?どういうこと?」
『その・・・中野課長と新人の子が噂になっていて』
頭痛がする。
ズキズキズキズキ
ドクンドクン
体中が色々な音で警鐘を鳴らす。
「噂って?」
『ただの噂だけど、二人がデキてるんじゃないかって』
井上さんは濁してはくれるけど、たぶんそれは噂ではない。
昨日の複数の通知
遅い帰宅
浮気の言葉で激昂する
「相手の名前は知ってますか?」
『佐伯麗、うるわしいと書いてうららって読むの。中野課長と行動を常に一緒にしていて最近ではランチも二人だし、あくまでも上司と部下だとアピールしてるけど、新人と課長が常に一緒ってなんか違和感があって、普通は先輩かチーフが教育係として付くならわかるんだけど、あと夜も二人で歩いているところを見た人がいたり』
そのあとは、何を言われたのか、私が何を言ったのかも覚えていない。
あくまでも噂なんだけど、と井上さんは言っていたけど火のない所に煙は立たないしいくつかの証拠が示すものは不倫の二文字だ。
”浮気”じゃないのかもしれない、だから不要なわたしは殴ってもいい人間になったのかもしれない。
怖い
これからも暴力を振るわれるかもしれない。
この日も篤の帰りは遅かった。
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