がんばってほしい

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

がんばってほしい

 母親が「終活や」と言って実家の整理を始めました。別に病気でもなんでもない元気なおばあちゃんです。多分暇なのかテレビ番組の影響でしょう。  結婚して実家の近くに住んでいる私は、狭い新居には持っていけない物をかなり大量に実家に放置していました。  いらない物というと語弊がありますね。捨てたくないけど、すぐには必要のない物とでも言いましょうか。  例えばアルバム、幼稚園、小学校、中学校、高校の卒業アルバムやそれに関連する物たち。卒業文集、卒業するときみんなに書いて貰ったメッセージ帳などなど。捨てたくない、でもしょっちゅう見る訳でもない、そんな品々です。  実家に呼ばれて行ってみると、玄関に山ほどその類いの物が積み上がっていました。そのなかには、母親が大切に取ってあったものもあります。  例えばへその緒。私たち兄姉の通信簿、作文、絵日記。  懐かしいなぁとせっかく束ねてある所から色んな物を引き出して眺めました。    通信簿。  小学生の頃の通信簿には学力を評価する欄の横に、生活態度を評価する欄もありました。  『できる』と『がんばってほしい』のどちらかに○が付いています。  「こんなんほとんど『できる』に○付いてたよな」  兄が言いながら私の通信簿を見ました。  「お前『がんばってほしい』あるやんけ」  覗き込むと本当にありました。 「何をがんばって欲しいって?」  姉が聞きました。 「……手や足を清潔にできる」   「お前、小さい頃汚かったもんな」  兄がしみじみそう言って、姉もうんうんと頷きました。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!