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ロールキャベツ
昔、「淀川姫号」という大層な名前の秋田犬を飼っていました。「よど」と呼んでいておじいちゃんの愛犬でした。
「よど」は私が物心ついた頃からすでにかなりデカかったので、私は飼い犬なのにそばに近寄れませんでした。
昔のわんちゃんは外で飼われるのが一般的だったので、我が家でもブロック塀の端に、さらにブロックで囲った四角い空間を作り犬小屋代わりにしていました。ごはんも今のようにドッグフードではなく、自分たちのごはんの余り物。犬の身体には良くないのですが、そんな知識も当時の私たちにはありませんでした。
「よど」のごはんは残り物のお味噌汁や、魚を煮た残り汁を薄めたものを冷やご飯に掛けるといった、塩分高すぎるし……と今では考えられないものがほとんどでした。
それもかなり怖いのですが、今回はそれではなく、父親の話です。
ウチの父親は料理が大好きでした。作るだけで、勿論洗い物などはしません。奥さんに嫌われるパティーンのやつです。
その日は母親が風邪で寝込んでいたので、私たち子供(姉・兄・私)と祖父・祖母の夕食は父親が作ってくれました。祖父は明治男なので、私達とは違うお膳が用意されます。おばあちゃんと私達子供はロールキャベツ。また手を掛けて超煮込んだやつでした。
小学校低学年だった私が兄姉の中で一番先に帰宅しました。台所で父親が料理をしている所を覗きにいくと、鍋からお玉がはみ出ています。お玉の柄の部分にフェルトで作ったドロドロの小汚いイチゴのマスコットが付いている、それは「よどのお玉」でした。
なぜわざわざそれを使っているのか、台所のお玉とは別の場所に置いてあるそれを何故にチョイスした?
「よどのお玉」はあまり洗っているのを見たことがありません。いつも「よどのお鍋」と一緒に次の「よど」のごはんの時まで放置されていました。
これを見たら、姉も兄も絶対食べないだろうと確信しました。
「おー 美味そうやろ。もう大分煮込んだからな」
満面の笑みの父。
そーっと「よどのお玉」を鍋から出し、別のお玉と差し替えました。
夕食時、「美味しいなぁ」とロールキャベツを食べる笑顔の食卓で、私だけが俯いていました。
今でもロールキャベツは好きではありません。
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