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穴を掘る
前回お話したブロックで囲われた「よどの部屋」は、よどが居なくなってからは物置になっていました。
我が家には、その後「ハナコ」という向かいの家で生まれた柴犬系の雑種がやってきました。でもハナコは縁の下が大好きでほぼそこに生息していたので「よどの部屋」は物置のまんまでした。
ある日そこから子猫の鳴き声がしました。
「野良猫が子供産んだんかな?」
兄とそう言いながらそっと積み上げられた荷物を動かした瞬間、猫が飛び出して来ました。兄はブロックで頭を打ち、私は「ぎゃあぁぁぁ」と叫びました。
一旦飛び出して走り去った猫は、かなり遠くからこちらを伺っています。物置のごちゃっとした荷物の奥には、生まれて間もないほにゃほにゃの赤ちゃん達が弱々しく鳴きながら4匹固まっていました。
「毛布とか持って来たらな寒いんちゃうか?」
「ホンマやな。でも大きいのしかないで」
兄と二人、毛布の代わりにバスタオルを段ボールに敷いて子猫をそこにいれました。
しばらくして、もう嫁いでいるのにしょっちゅう実家へ遊びに来ていた姉が、その日もやって来ました。子猫の事を話すと、
「人間が触ったり見たりしたら、親猫が警戒して子猫のとこに戻って来えへえんようになるかもよ」
兄と顔を見合わせました。
(もう、遅いねや……)
段ボールに入れたり、バスタオルまで敷いてもうたー どうしよー と姉に報告すると、
「とりあえず、あんまり近づかんと様子見よ。明日も親猫が居らんかったら病院連れて行かんと。弱ってるかも知れん」
次の日、学校へ行く前にそうっと様子を伺うと、子猫の鳴き声はしているようだったので、とりあえず帰ってからもう一度見に行ってみようとそのまま家を出ました。
家に帰って「よどの部屋」に行くと、そこに子猫は居なくなっていました。
ウチの母親は、
「親猫がどっか連れて行ったんやな」
と言っていましたが、兄と私は
(絶対、姉ちゃんや…)
と思っていました。
後日姉に確認すると、姉がため息を付きながら話してくれました。
「気になるから猫見に来てん。そしたらお母さんが庭でしゃがみ込んで何かしてるから、どうしたん?って聞いたら
『一匹死んどったからさっき埋めてんけど、多分また死ぬからもう穴掘ってんねん』
って、あっけらかーんと笑顔で言うから……心底肝が冷えた……」
結局子猫は姉が病院に連れて行き、二匹は知り合いに、一匹は姉の家で飼われることになりました。
姉はあの時の母の笑顔が忘れられないそうです。
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