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 中学3年生の頃、友達の男の子と友達の女の子と私の三人で夜中に家を抜け出して公園で会う、というちょっぴりスリリングな遊び(?)が流行りました。流行りと言っても三人の間でだけですが。一応受験生ということもあり、ストレス解消的な意味合いもあったのかも知れません。  夜中の1時2時に公園に集合し、朝の4時ごろまでただおしゃべりをしながら過ごして朝日を見てから帰る、それだけの遊びです。  夜遊びは夜遊びですが、今思えば可愛らしいものだと微笑ましくなります。  我が家は祖父、祖母、両親、私より五つ上の姉、三つ上の兄、そして私の7人家族です。  全員の目を掻い潜りこっそり脱出する、それは当時の私にはドキドキワクワクする大冒険でした。  約束している日に限って皆んながなかなか寝てくれない。いつまでもテレビを見ながら居間でしゃべっている……焦りながら家族が寝静まるのを待ちます。  その日、もう社会人だった姉は会社の飲み会があるとかで遅くなると電話があったため、姉の帰りを待つ父や母が寝てくれない……どうしよう……  とりあえず寝るふりをして自分の部屋に行きました。私の部屋は両親と同じ2階ですが部屋が違います。夜中に覗きに来ることもないので、見つからないように抜け出す事さえ出来れば大丈夫。  因みに我が家は神道系の宗教法人で、家には神殿があります。お正月には信者さんが初詣にも来てくれます。神殿の、普段は開けることのない引き戸を開けると、周辺の隣家との間にブロック塀があり、人ひとりが漸く通れるぐらいの細い隙間が正面玄関のある庭まで続いていました。  お正月前の大掃除で年に一度掃除するくらいで、普段は全く通ることのない隙間。家の外壁に沿ってコの字型あるその細ーい隙間をそおっと抜けて、いつも私は真夜中の冒険に出ていました。  その日の夜も、まだ起きている両親に見つからないよう静かに引き戸を開け、事前に置いておいた靴を履いて隙間から表に向かいました。コの字型の最初のカーブを曲がってしばらく行くと、その細い通路に何かが居ました。ヒッ!と声が出そうなのを慌てて押し殺し、真っ暗な中目を凝らして通路を塞いでいる影を見つめました。  姉でした。  飲み会で酔っ払った姉がその細ーい隙間にみっしりと詰まっていました。姉はかなり…ふくよかなのです。 「ねーちゃん?!何してんの!!」  一応声をひそめて聞きました。 「ちょっと飲み過ぎてー このまま帰ったらお母さんらに怒られると思って……顔赤いのがマシになるまで時間置いてから帰ろうと思ってんけど、夜やし外におるのは怖いから……ここで時間潰しててん」  姉は超酒豪でかなりお酒は強い方です。意識はしっかりしていましたが、相当飲んだらしく顔も赤くなって、少し呂律も回ってないからお酒が抜けるまで家に入らず待っていたそうです。  イヤイヤイヤ。何もこんなとこに挟まらんでもエエやん、と呆れました。 「それよりアンタは何してんのよ?」  あ、ヤバっ……  結局お互いに同盟を結び、この事はナイショねと約束を交わして、私は夜の公園に、姉は一旦隙間を出た後また再び挟まりに向かいました。  次の日、姉には「アンター 危ないからそんな事やめときやっ!」と叱られたのですが、自分の行動を省みて説得力に欠けると思ったのか、あまり強くは言われませんでした。  夜の大冒険はその後何度か繰り返しましたが、いつしか何となく集まることもなくなりました。  挟まっていた姉に衝撃を受けたものの、やっぱり姉ちゃんは長女というか、しっかりしてるなー と末っ子の私とは危機管理能力が雲泥の差の姉を、ちょっとだけ尊敬した出来事でした。
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