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「僕たちはここを異世界と呼んでいる。異世界のダンションに潜って配信をしてお金を稼ぐ。僕たちは異世界ダンジョン配信者だよ」
あずみはうつむいて、震えていた。
「私、約束があるんです。おばあちゃんと」
「そう」
「大学に行くって。いい大学に行って、いい会社に就職して、おばあちゃんを楽にさせてあげるって。約束したんです」
「いい約束じゃない。おばあちゃん子なんだね」
「はい……」
あずみは肩を震わせて、静かに泣いていた。
無言のままアリスとあずみは大通りを歩く。
「そろそろさ、話をしてもいい?」
沈黙に耐えられなくなったアリスが話しかけた。あずみは黙って頷くと、拳で涙を拭いて顔をあげる。目の周りが赤くなっていた。
「あずみちゃんがどう考えようとかまわないけど、ここで生きていくためには配信は必須。そのためには最低限のマナーがある。それはいい?」
「はい」
「基本的なマナーは3つかな。モンスタートレインをしない。他者の配信に映り込まない。PvPは基本的に禁止」
あずみは真面目な顔で聞きながら、小声で繰り返していた。
「モンスタートレインっているのはね。ダンジョンを攻略している最中に、モンスターを溜め込んで移動する行為を言うんだよ。モンスターって近くにいる配信者を狙って移動する習性があるから。これで、移動しちゃうと途中で他の配信者に出会ったりするとモンスターをなすりつけちゃうんだよね。突然、大量のモンスターに襲われると危険だからさ」
「は、はい」
あずみは自分の今日の行動を思い出しているのだろう。顔色を青くさせていた。
「次は、他人の配信に映り込まない。コラボしているならいいんだけどね。基本的には挨拶して後から来た方が移動するって言うのがマナーかな」
「は、はい」
「で、PvPの禁止。これは要は、対人戦闘を禁止しているんだよ。配信者狩りの禁止っていうか。特に、街のなか。Lv1からLv7までの階層は絶対に禁止。守らない奴はガチでヤバい配信者だからね。吊し上げられても文句はいえないよ。逆に、Lv8から上の階層は合意があればPvPできるんだけどね。それでも、アバターコアは狙うのは禁止。壊れたら死んじゃうからね」
「は、はい」
「基本的なマナーはこんなところかな~」
アリスはあずみの顔を見ないで一気に捲し立てた。
それをあずみは律儀に聞いている。
そしてアリスは足を止めてあずみの顔を見た。
「基本の説明はこんな感じ。どうする? ここで終わりにしてお別れをする? それとも、もっと説明やアドバイスが欲しい?」
「……。ご迷惑でなければ、その、教えてほしいです」
「それじゃ、アドバイス料かな」
といって、アリスは手を差し出した。
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