3人が本棚に入れています
本棚に追加
人が生きている限り、縁が発生するものだ。
この世界では、お金や物の貸し借りをするということはとても大きな縁なのだ。
しがらみとも言える。
「まぁ。しょうがないか」
と言ってアリスも足元にテレポ石を叩きつけた。
「あ、あのあずみっていいます。よろしくお願いします」
「僕はアリスだよ。よろしくね」
アリスがゲート前に転送されると、女アバターは心細そうにゲートの渦の中にいた。
ゲートといっても門があるわけではない。
金属のような物質が円形に大きな縁取りをつくて、その中で光が渦を巻いている。この渦の中に入るとダンジョンに移動することができるのだ。
「ここにいると邪魔になるから、移動しよっか」
「はい」
アリスはあずみに声をかけて、ゲートから出る。
ゲート前には様々な人々がいて、屋台やお店が軒を連ねている。
これから、ゲートに入るもの。ダンジョンから帰ってきたもの。そして、それらを相手に商売をするもの。そのほとんどが配信者だった。
「ここがゲート前広場。それは知っているよね?」
「はい。一応……」
アリスは、あずみの知識量を確認するために質問をした。
「一応、言っておくけどここから各ダンジョンに行けるから。行くためには……」
「通行料が必要なんですよね?」
「そうそう」
アリスは笑顔で頷く。そして、お腹をさすった。
小腹がすいたなぁ。二時間も配信したし、ちょっとなにかつまみたい。
「あー、屋台でも寄ってく?」
あずみに声をかければ、あずみは顔をくしゃっとさせて悩み出した。
「お腹空いてないなら僕だけ食べるけど」
「あの、その。あんまり、お金がなくて」
「ああ、そういうね」
あずみの返答に、アリスはちょっとだけ考え込む。
これはあれだ、新人にはつきものの金欠だ。この時は特にいろいろ買い揃えたり、通行料を払うのにお金がかかる。それらを賄えるだけのダンジョンでのアイテム収入も配信収入もない。
ベテランでも金欠なのは同じだ。でもベテランなら、必要があれば借金をする。しかし、新人では借金に踏み込むだけの勇気がないだろう。
「じゃ、奢ってあげる。今回だけね」
「いいんですか?」
「特別だよ」
アリスは屋台の一つに近づいた。串焼きの屋台で、香ばしいタレの香りが漂っている。
最初のコメントを投稿しよう!