コン、コン、 (1300文字:全2ページ)

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 そんな状態が数ヶ月続いていたある日のこと、野上さんは自分でも驚くような行動に出た。  時刻は午後十一時過ぎだった。ベッドに寝ころんで地元の友達とLINEでやり取りしていた。すると、例の音が掃きだし窓から聞こえた。  コン……コン……  野上さんはLINEを中断してスマホを枕元におくと、窓へと近づいていった。そうしてカーテンと窓をすっかり開け放ってから、真っ暗なベランダに向かって問いかけた。 「誰かいるの?」  すると、ベランダでなにかが動いた。野上さんはそれをはっきりと見て、それも野上さんをじっと見据えた。野上さんとそれは真正面から目が合った。  だが、なぜか翌日になるとなにを見たのかを、思いだすことができなくなっていた。なにかを見たことは覚えているし、なにかと目が合ったという記憶もある。  しかし、ベランダでいったいなにを見たのか、その仔細をまったく思いだせないのだ。  それは野上さんに敵意を持ってはいなかったものの、だからといって好意的ということもなかったはずだ。そういった心象も残っているというのに、どうしてもその詳しくを思いだせなかった。思いだそうとすると頭がモヤモヤとして、深く考えるのがひどく億劫になるのだった。  また、窓を指で軽くノックするような奇妙な音は、その日を境にしてまったく聞こえなくなったのだという。      了
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