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猫を抱いて象と泳ぐ 小川洋子
チェスのグランドマスター、アレクサンドル・アリョーヒン(正しくはアレヒンらしい)を模したチェス人形”リトル・アリョーヒン”の中に入ってチェスを指すことになる少年の話です。
人間が中に入って操作し、外にいる人間と戦う人形は実際過去に存在し、「トルコ人」という名前で活躍したそうです。体裁としては全自動チェスマシーンであり、その仕組みを暴こうとする文献がいくつも存在するのが面白いですね。こんなロマンチックな事実があったことすら今まで知らなかったです。
〜内容(主観込み)〜
上下の唇が繋がった状態で生まれた少年は、その事実が示すように沈黙と、沈黙の内に広がる世界を愛していた。デパートの屋上にかつて暮らしていた象の足輪を眺めては、彼の生涯と心の内を想像し、彼と友達にすらなっていた。
ある日、少年は古くなった回送バスの中で暮らしている”マスター”に出会う。マスターは少年にチェスと、その盤上に広がる無限の世界を教え、少年はその無限を旅する生涯を送ることになる。
チェスが題材になっているものの、勝ち負けはさほど重要ではなく、「自分と他者の内面世界を愛した少年の話」ということだと思いました。少年が出会う仲間や思い入れる対戦相手は、皆沈黙のうちに自分の世界を持っています。人形の中の少年は、彼ら彼女らと言葉は交わさずとも、チェスという宇宙を通して対話をします。現実世界で少年が人と会話するシーンは多くないのですが、少年から孤独を感じるシーンは少ない、と思います。
沈黙の中に大きな世界を持った少年と、またその周りの人たちとの物語は、読んでいるこちら側もその宇宙の中に受け入れ、優しくあやしてくれるようでした。
舞台は日本なのかな〜と思いながら読みましたが、特に細かく記載されているわけではなく、どこか別の国の話としても読めると思います。長編小説でありながらそうやって絵本チックに楽しめるところも好きです。
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