君が手にするはずだった黄金について 小川哲

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君が手にするはずだった黄金について 小川哲

君が手にするはずだった黄金について(2023) 著:小川哲  書店で面出しされていたものを購入。著者を思わせる人物が主人公で、でもエッセイではないということで中身が気になった。  主人公が小説家になる過程を描いた”プロローグ”、東日本大震災3月11日ではなく、その前日を思い出そうとする”三月十日”、友人のために占い師の鼻を明かそうとする”小説家の鏡”、胡散臭い道に進んでしまった過去の同級生を語る”君が手にするはずだった黄金について”、主人公に近づいてきたある漫画家を描いた”偽物”、おそらく純度の高い実体験であろう”受賞エッセイ”、以上の短編からなっている。  主人公が大学院生の”プロローグ”から話が始まるが、すぐにこの主人公のことが嫌いだなと思った。とにかく自分の歩んできた人生に自信があって、盛大にスカしている。それは地の文からも彼女である美梨への言動からも伝わってくる。そのくせ自分の汚い部分については全く目を向けない。と、何ならこの本の作者ごと嫌いになりそうだったのだけど、そんな単純な話な訳ないよなと読み進めていくうちに考えを改めた。後半にある美梨の父親の「『俺は美梨のことを世界一甘やかして育ててきたつもりだったが、世界二位だった』『もっと甘やかされて育ったやつがいた』(主人公のこと)」という発言があることから、少なくとも意図してこのような主人公の描き方をしているのだろうなと思った。作者自身こういう考えの過去があったということかもしれないし、心の一部を誇大して描いたのかもしれない。そうなると、この第一章ですでに、「お前はどうなんだ」という読者への問いかけが発生しているようにも思う。私はどう?スカしているところ、あるなぁ~。  後に続く物語では見下しても構わないと思えるような人間と、自分の間に以外にも共通点があるのではないかと考えるような話が続くが、個人的にはそんなことまで考える余裕がありますよ、というだけでなおも安全圏から見下している感はあり、そこまで気持ちよくはないなと思った。
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