398人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうかした? 何、それ?」
丈流が不審そうに目を細めた。
「これは……」
ぬいぐるみを抱く腕に力がこもる。
どうしよう。
何をどう説明すればいいの?
二の句が継げずに、ツカサは唇を引き結ぶ。
すると丈流が、ツカサの横をすり抜けていった。
ソファの上から報告書をつまみ上げ、振り返る。
「俺に黙って、DNA鑑定したんだ?」
怒っているのか呆れているのか、冷ややかな声だった。
「心配かけたくなくて……ご、ごめんね」
自分一人でどうにかできると思っていたが、甘かったようだ。
もっと大きな何かがうごめいている気がして、ツカサは声を震わせる。
「これ、捏造だろ? どうして、こんなものが?」
「捏造……⁉ そんなはずは……だって、目の前で検体を採取したんだよ?」
「へえ。で、相手は誰?」
「ジュエリー教室の、北見先生……」
つい、その名前を口にしてしまい、ツカサは慌てて唇を噛みしめる。
「ああ、あいつか。だったら、間違いなく偽造だな。この報告書は偽物だ。ツカサは騙されてるんだよ」
丈流は蒼人を知っているような口ぶりだった。
どうして?
騙されてるって本当に?
何を信じればいいの?
いつもなら、手放しで信じていた丈流の言葉を、今のツカサは疑わずにいられない。
誰が真実を知っているの?
ただ怖くて、不安だった。
そこで、丈流がツカサへと手を差し伸べる。
「大丈夫だよ。座って、ちゃんと話そう?」
ツカサが怯えているのを感じ取ったのか、優しい声で丈流は言った。
「い、嫌……」
しかしツカサは、じり、と後退る。
「ツカサ、おいで」
丈流の手を払いのけた。
「このぬいぐるみ、カメラだよね? 私を監視していたの?」
丈流はぬいぐるみを受け取ると、ふわりと笑みを浮かべるのだ。
「ああ、これね。赤ちゃん用の、見守りカメラだよ」
「作動してた。録画できるようになってた」
「ワイヤレスで、こうしてアプリから確認することもできる」
丈流は何でもないことのように、自分のスマホを掲げてみせた。
最初のコメントを投稿しよう!