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「どうして隠してたの? おかしいよ、こんなの」
ツカサは丈流を問い詰める。
「言ったところで、怪しまれるだろ? ただでさえ、ツカサは記憶を失くして、疑心暗鬼になっているんだから。俺はただ、ツカサが心配で……」
「私のほうがおかしいって言っているの?」
ツカサの言葉に、ぴくり、と丈流の眉が動く。
「そうじゃない。おかしいのは……たぶん、俺だ」
すると、丈流の顔から、柔らかな笑みがすっと消えていった。
「ツカサはきっと知らない。俺の愛は……ツカサが思うよりずっと、重いんだ」
「えっ……?」
丈流の深い色の瞳に捕らえられ、ツカサは身動きできなくなる。
二人に、愛は残っているのだろうか。
一グラムでもいいから、残っていて。
ツカサは咄嗟に願ってしまった。
どんな丈流でも、嫌いになれそうにない。
そんな自分に呆れながらも、偽ることはできない。
消えた記憶に何があろうと、残った記憶の中にある丈流への思いは揺らがない。
集合写真の隅っこに映っているような、地味で目立たないツカサを見つけてくれた。
そして、心ごと抱きしめてくれた。
一生一緒にいようと誓って、毎日のように優しく髪を撫でてくれた。
人を好きになるのに、たいした理由はいらないと知った。
ただそばにいてくれるだけで、生きる意味と同等だった。
じんわりと瞼が熱を帯びていくのを感じる。
真実を知るのが怖い。丈流と離れたくない。
だけど、この子を守れるのは自分だけ。真実から目をそむけてはいけない。
相反する気持ちに、ツカサの心はかき乱される。
「ツカサ、おいで。ゆっくり話そう」
丈流がツカサの二の腕を掴んだ。
「嫌、離して」
言葉では拒否するが、体が動かない。
「落ち着いて。俺の話を聞いてほしい」
「今は聞きたくない」
知りたい気持ちと、知りたくない気持ちが、せめぎ合う。
知ってしまったら、きっと引き返せない。
丈流や子供と一緒にいられる幸せな未来を、夢見ることさえ許されないのではないか。
「何も聞きたくない」
混乱するツカサは、両耳を手で塞ぎ頭を左右に振った。
「ツカサ、とにかく座って」
「……私……もう……」
立っていられない――急に目の前が真っ白になり、体の力が抜けていく。
ツカサは膝から崩れ落ちていった。
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