◇予期せぬ真実

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 ※※※  ――一年前  厚い灰色の雲が低く垂れ込め、空気がじっとりと肌にまとわりつく頃。  とうとうツカサの我慢は限界を超えた。  義母の晴美から毎日のように跡取りをせっつかれる。  不妊治療に専念しなさいと言われ、最上家の口利きで入社したとはいえ、真面目に勤めていた会社を無理やり退職させられてしまった。 「待つって、どのくらい待てばいいの? 私は、丈流の何なの?」  ツカサが丈流に気持ちをぶつけたのは、ほぼそれがはじめてだったと言えるだろう。 「ツカサ?」  丈流はひどく驚いたような顔をしていた。  深夜に帰ってきていきなり、妻に詰め寄られたのだから驚かないはずがない。 「夫は毎晩遅くに寝に帰ってくるだけなのに、こんな生活で、子どもなんてできるはずがないじゃない」  ツカサはクッションをソファへ叩きつけた。  もう終わってもいいと思っていた。  丈流への愛は変わらないけれど、これ以上、最上の人間としてやっていける自信はない。  いっそ嫌われたほうがすっきりする。  感情をむき出しにして、ツカサは丈流を振り返った。 「最上家の人たちとはもうやっていけない」 「また、母が何か言ってきた? だから、無視していいって……」 「できるわけないよ!」  晴美の重圧に耐えながら、そんな彼女に同調する自分をツカサは否定しきれずにいた。 『最上の人間にとって大事なことは、財産を守ることだけ。この家は魔物なの。最上家という恐ろしい魔物よ。男は魔物に魅入られ、女は魔物の餌食になる』  晴美の声が頭の中で鳴り響く。  最上家の人間として苦悩してきた晴美の心の叫びが、いつまでたっても消えない。
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