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「もう言いなりになんかならない。私は丈流との子どもがほしいって言ってるんだよ? なのに、はっきりした理由も教えられず、最上の家に縛り付けられているだけ。丈流は、私のことなんか愛してない」
「そんなわけないだろ。愛しているよ、ツカサ」
「だったら、ちゃんと説明して。私を対等に扱わないのなら、私は丈流をもうこれ以上愛さない!」
息を荒げ、ツカサは丈流を見据えた。
「そっか……」
丈流は口元を押さえ、うつむく。
かすかに、うめき声のようなものが聞こえる。肩が小刻みに上下していた。
泣いているのだろうか。
「丈流?」
顔を覗き込もうとして、ツカサはハッとした。
どうやら、泣いているわけではないようだ。
丈流から、「くっくっくっ」と笑い声が漏れる。
「あはははっ! 最高だよ、ツカサ」
丈流は前髪をかきあげながら、顔をあげた。
その表情は恍惚としていて、恐怖さえ覚える。
「大切にしてきたのに、満足できなかった?」
「守るとか、大切にとか、私が望んだことじゃない。私は丈流と一緒に幸せになりたいだけだよ。二人の子どもがほしいの。大好きな人の子どもを産みたい」
「俺は、ツカサとの子どもはほしいけど、最上の子どもはいらないんだ」
優しい声色で、丈流は言った。
ツカサの目を覗き込むように、丈流が顔を傾ける。
「ツカサに余計な心配させまいとしたのが間違いだったのかな。今、子どもを作ったところで、最上の家に取り上げられるに決まってる。ツカサが思い描く幸せなんてない。生まれた子どもは、正しく最上の人間となるよう徹底的に教育され、最上の名と財を守るためにだけ生かされるんだ。他の道なんかない。そうして、俺みたいな歪んだ人間ができあがる」
丈流は自嘲気味な笑みを浮かべた。
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