6 誘導尋問とガラガラ声

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6 誘導尋問とガラガラ声

 借り物競走が終わって山岸くんと一緒にテントに戻っていくと、みんなが喜んで出迎えてくれた。 「有紗、速かったやん〜」 「山岸くんのおかげよ。めっちゃ速く走れた!」 「いやほんと、山岸くんもカッコ良かったよ!」  真衣子が褒めると山岸くんはひょいと頭を下げ、すぐに坂口くんたちの方へ行ってしまった。 「ちょっと有紗、もしかして山岸のこと好きなんやないの?」  私は真衣子、美佳、奈津に囲まれてコソコソと耳打ちされた。 「あっ、やっぱりそうだ。耳まで真っ赤になっとるや〜ん」  三人が揶揄うように身体をぶつけてくる。 「えっ、なんでなんで?」 「だってさぁ、二人で座ってる時めっちゃ嬉しそうで甘々な顔してたんよ〜。あれは誰が見てもわかるわい」 「うそぉ。ホントにそんな顔してた?」 「あ。白状したな」 「うえーん。誘導尋問や」  泣き真似する私を、三人はキャッキャと笑いながらハグしてくる。 「山岸か〜。心配ではあるけど、有紗なら可愛いけん顔直せなんて言われんやろ。大丈夫よ、告っちゃえ有紗」 「ちょ、ちょい待って。まだ自覚したばかりなんやもん。もっと友達として仲良くなりたいな、て思ってるんよ……」 「まあね。まだ高校生活は始まったばかりやもんね。有紗なら他にもええ人おるような気もするけど、好きになったんならしゃあないか。うん、頑張れ有紗。応援するよ!」  奈津に背中をバシッと叩かれた。けっこう痛い。でも嬉しい。  そして、いよいよ最後の競技、選抜リレーの時間だ。現時点で青雲グループの総得点は一位の黒龍グループと僅差の二位。選抜リレーで一位になれば逆転も可能だ。一年生から三年生までバトンを繋ぎ、アンカーは三年のグループ長と決まっている。各グループの応援も最高潮を迎えていた。 「行けー! 山岸!」 「山岸くん頑張ってー!」  一番手で走る山岸くんに、グループ中から声援が飛んでいる。もちろん私も、誰よりも声を上げて応援している。  青いビブスを着た山岸くんがスタートラインに並んだ。すごく気合の入った顔をしているせいか、やっぱり怒っているように見える。そしてピストルの音が鳴った。 「さあ、一斉にスタートです! おっと、青雲の選手が飛び出しました! これは速い! ぐんぐん加速していきます。二位は紫苑! すぐ後ろを黒龍です。少し遅れて紅蓮。さあ、この後どうなるのでしょうか!」  放送部のアナウンスも熱を帯びている。山岸君が私たちの目の前に走ってきた。長いストライドで力強く地面を蹴り、コーナーを曲がって行く。二位との差がまた拡がり、私たちは歓声を上げた。 「山岸くーん! 頑張れー!」  声の限り叫ぶ。こんなに大声で堂々と彼の名を呼ぶことが出来るなんて。私は何度も何度も叫んだ。そして次の選手である奈津にバトンが渡る。 「やったー! 一位よ!」  先輩たちの声が聞こえる。 「奈津ーー! 行っけえーー!」  差が少し縮まったが、奈津は一位をキープして次へ繋いだ。学校中の声援がうねるように空へ上っていく。順位に一喜一憂しながらついに、アンカーへバトンが回った。今、青雲は二位だ。一位の紫苑を抜かないと優勝は出来ない。 「さあ紫苑がこのまま逃げ切るか? それとも青雲、抜くことが出来るのか?青雲が迫ります。さあ、どうだーーーー」  もつれあった二人がゴールに飛び込んだ。判定は…… 「一着。紫苑です!」  ああ……、とため息が青雲サイドに漏れる。だがすぐにそれは拍手に変わり、すべての選手の健闘を称えた。 「みんな頑張ったよ、すごかった」  隣にいる真衣子に話し掛けた私の声はガラガラになっていた。 「何よ、有紗。変な声!」  そう笑う真衣子の声もカスカスになっていた。それが可笑しくて、私たちはずっと笑い転げていた。  
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