8 ボートレースとかき氷

1/2
前へ
/84ページ
次へ

8 ボートレースとかき氷

「有紗! こっちこっち」 「ごめん、奈津」  私は慌てて救命胴衣を付け、青いビブスを被った。メンバーは五名、四人がオールを漕ぎ一人はコックスという声掛けのポジションだ。ボートに乗り込み、合図を待つ。そしてピストルの音で一斉にスタートだ。 「キャッチ、ロー、 キャッチ、ロー」  掛け声に合わせて重いオールを動かす。岸を離れると浜辺の音楽や声援が聞こえなくなり、私たちだけの世界になる。  キャッチ、ロー、キャッチ、ロー。滑るように進んでいくボート。  ああ、私、青春してるなあ。そんな風に考えているうちに、ふいに音のある世界に戻ってきた。いつの間にかゴールしていたのだ。  美佳たちが「お疲れ!」と笑っている。残念ながら私たちのボートは予選で敗れ決勝に進めなかったが、心地よい達成感に包まれていた。  ボートを降りて浜辺に戻ると、クラスのみんなが拍手で出迎えてくれた。山岸くんも拍手してくれていて、しかも私の麦わらを頭に被っているではないか。 「山岸くん帽子ありがと! めっちゃ似合うやん」 「ああ、これな? メガホンで両手が塞がるから被ってたんよ。ごめんごめん」  そう言うと麦わらを片手で外し、私の頭にポンと載せて被せてくれた。 「惜しかったけど、和辻さんらカッコよかったよ」  山岸くんは男子ボートの応援をしに、みんなのところに戻って行った。私は山岸くんの温もりが残る麦わら帽子のツバを、風に飛ばされないようにぎゅっと握り締めていた。 「ちょっとちょっと、有紗! いい感じやん!」  美佳と真衣子が走り寄ってきた。 「ありがとう。二人のおかげよ」 「山岸くんの麦わら姿、バッチリ盗撮しといたから〜! 楽しみにしとき〜!」 「うそ、マジ? ありがとう真衣子ー!」  私は真衣子に抱きつき、暑いから離れろと言われてもずっとハグしつづけていた。  午前中は各学年のボート予選が続き、勝ち残った組だけが午後のレースに出場する。  七組の男子は決勝に残ったし、青雲グループは他にもまあまあの成績を残していた。午後からの決勝が楽しみだ。  ここで昼休み。レジャーシートを敷いての楽しいお弁当タイム。とはいえ、あまりの暑さに食欲はほぼないのだけれど。 「はーい! 1-7、集まれー!」  午後の部の前に各クラスはホームルーム活動というものをそれぞれやる。相撲大会だったりフルーツバスケットだったり、クラスの親睦を深めるために工夫を凝らすのだ。  うちのクラスはかき氷をやることになっている。ホームルーム活動担当がクーラーボックスに氷、家から持ってきた手動のかき氷機を四台も用意して振る舞ってくれた。イチゴとカルピスとブルーハワイ。好きなシロップをかけてもらって浜辺で食べるかき氷の最高なことと言ったらない。 「奈津、ほら見て」 「あ、有紗、ベロが青やん! 私はねえ、赤!」  美佳と真衣子も一緒に見せ合って笑っていると、山岸くんと坂口くんが通りすがりにべーって舌を出していった。 「あー、二人とも青ーい!」  おんなじ色だ。それを見せてくれたのがまた嬉しくて、麦わら帽子を深く被って目線を隠しながら二人の後ろ姿をずっと目で追い続けた。  
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加