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9 打ち上げと解けた誤解
ボート大会が終わった週末、クラスで打ち上げをすることになった。食べ放題の焼肉屋で大人数が集まれるところを尾崎くんが予約してくれている。
(これはチャンスかもしれない。告白まで出来なくてもせめて、彼女がいるかどうかだけでも聞こう)
休み時間にそんなことを考えていたらふいに、山岸くんに話しかけられた。
「和辻さん、打ち上げ行くん?」
ちょうど考えていたところだったので、心を読まれたのかと焦る。
「も、もちろん行くよ! クラスで初めての打ち上げやもん。山岸くんも行くよね?」
ていうか、来て欲しい。
「うーん、そうやなぁ。行こかな」
「ほんと? やったあ」
「俺、あんまし喋るん得意やないからこういうの苦手やけど……このクラスは雰囲気がいいし、大丈夫そうやなって思て」
「そうよ、絶対行こ! 山岸くんおらんと寂しいよ。そのイケボが聞きたいし」
「はあ? イケボ?」
「そうだよー。めっちゃ低くていい声してるよ! 言われたことない?」
「……ない」
山岸くんは手の甲を鼻に当てて顔を隠していたけれど、頬がほんのり赤くなっていた。自分のことを褒められて照れ臭いんだろうか。そんな仕草にもキュンとした。
「このクラスでいられるのも三月までやもんね。いろんな思い出、みんなで作ろうね」
「そうやな」
まだ赤みの残る顔を下に向けたまま、山岸くんは返事をしてくれた。口元は微笑んでいた、と思う。
そして週末、七組メンバーは焼肉屋に集合していた。駐輪場には自転車がずらりと並んでいる。
「それでは、ボート大会の青雲優勝と七組の親睦を祝って――コーラだけど、かんぱーい!」
尾崎くんの発声で打ち上げは始まった。座席は適当にということだったので奈津たちが上手く動いてくれて、六人掛けの席に私たち四人と山岸くん、坂口くんが座ることになった。
(ありがとー! 奈津!)
奈津、山岸くん、私が並んで座り、向かい側に真衣子、坂口くん、美佳。そう、私の隣は山岸くんなのだ。
「さ、どんどん焼いてくよ! 食べ放題なんだから元を取らなきゃ」
オカン気質の奈津が肉をドンドン焼いていく。
「焼肉奉行やぁ」
坂口くんにからかわれて怒りながらも、みんなの皿に焼けたお肉を有無を言わさず載せていく奈津。
「野菜も食べないかんよー」
食べ盛りの高校生たちばかりなので、どんどん空いた皿が溜まっていく。こうやってみんなで食べるご飯はなんて楽しいんだろう。
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