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「ねえねえ山岸。中学の時に女子をひどい振り方したってホント?」
とりあえずみんなのお腹が満たされた頃、奈津が話を振った。山岸くんの顔を見ると、ちょっと困ったような、でも嫌がる様子ではなかった。
「うーん、あれはちょっとした誤解、かな」
「誤解?」
私が聞くと、彼は私の目をちょっと見てから話し始めた。
「テニスの練習をしよる時、女子がコートの周りに集まってキャーキャー騒いでたことがあって。最後の総体前の大事な練習で、集中したかったからどいて欲しいって言ったんよ」
「そしたら今度は部室の前で出待ちみたいなことされて。同期の奴に、気が散るからあの女子たち帰らせてくれって頼んだら、そいつが『山岸がお前ら自分の顔直してから来いって言よるでー』って言うたんよなあ」
「えー! 山岸が言ったんやないんやね」
「うん。でも俺が言ったことになってて、女子から総スカンやった」
「その誤解は解かんかったん?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「まあ、帰らせろって言ったのは俺やし、嫌われた方が練習の邪魔されることもないかって思ってそのままほっといたんよ。そしたら全員に無視されたまんま卒業になった」
奈津は「へ――」と変な声を上げると山岸くんの背中をバシンと叩いた。
「イテッ」
「それで女子が苦手になったんやねー! でも大丈夫! そんな女子ばかりやないよ!」
そう言いながらバンバン叩く。
「おーい山村さん、そんなに叩いたら別のトラウマが発生しちゃうよー」
坂口くんがニコニコしながら奈津を止めた。奈津はごめんごめん、と言って両手を合わせて謝った。
「まあとにかく。中学時代は中学時代。今は高校生なんやし、男女仲良くやってこう!」
「ああ。そうするよ」
穏やかな笑顔を見せる山岸くん。良かった、やっぱりあの噂は本当じゃなかったんだ。きっとテニスのことを最優先にし過ぎて誤解を生んでしまったんだと思う。
「山岸くん、次は体育祭が待ってるよ。夏休み後半から準備始まるし、楽しもうね」
「そうやな。和辻さんは体育祭、何パートをやるん?」
一年で一番大きな行事、体育祭。その準備は応援、演劇、櫓、パネル、大道具小道具、そして大きな人形作り。
これらのパートに分かれて夏休みから準備を進めていくのだ。できれば山岸くんと同じパートになりたい。そうすれば準備で一緒にいる時間が長くなる。
「んー、まだはっきり決めてないんよ。山岸くんは?」
「俺は人前で踊ったりはできんしなぁ、絵も描けんし細かい道具も作れんし。やっぱ櫓かな」
なるほど、櫓か。確か竹で大きな櫓を組み上げて、パネル絵を貼ったり足場のような段を作って人が乗れるようにする、けっこう大変なパートだと聞いている。でも山岸君がやるのなら。
「私もそうだよー、絵は苦手。私も櫓にしようかなあ」
「いいや〜ん、和辻さん櫓にしたら? 力仕事多いから男子ばっかり集まるらしいけん、むさ苦しいやん。女の子来てくれたら嬉しいな〜」
坂口くんがそう言ってくれたので、私と奈津は櫓を志望することを宣言した。
「櫓を組むための竹を取りに行くらしいからさ、その時はみんなで行こうね」
めっちゃしんどくて女子には人気がないパートなのに付き合ってくれる奈津に大感謝だ。
「私の好きな人もね、櫓志望なんだ」
そのあとトイレでこっそり教えてくれた奈津。お互い頑張ろ、と二人でグータッチした。
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