1 入学式と隣の男子

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 それから何人かと自己紹介し合って喋っていると、私の隣の席に背の高い男子がストンと座った。さっき見た名簿によると山岸という苗字だったはず。高校生活最初のお隣さんだ。 「おはよう、山岸くん。私は隣の席の和辻です。よろしく」  山岸くんは私をチラッと見て微かに頷くと、イヤホンをつけて机に突っ伏してしまった。なんてことだろう、いきなり壁を作られている。 「大丈夫よ、気にせんでも」  私の不安げな様子を見た奈津が少し声を落として言った。 「山岸はね、女嫌いなんよ」 「奈津、同じ中学なん?」 「ううん、違う中学やけど、山岸もテニス部だから大会で顔合わすんよね。だから存在は知ってたんよ」  そこでいったん話を切ると、奈津はさらに声をひそめた。 「でね、あいつと同中の子が言うには、あいつ、めっちゃ嫌な奴らしいんよ」 「そうなん……性格に難ありってこと?」  うんうんと頷く奈津。 「顔はめちゃくちゃイケメンやろ? 背も高いしテニスも上手いし最初はモテてたらしい。でも告白してきた女子を酷い形で振ったとかで、それからめちゃくちゃに嫌われてるという話よ」 「へえ……」 「だから女子とは口もきかないんだって」  そっかー。女子とは口、きかないのか。一学期の間は席替えしないらしいし、一人しかいないお隣さんが話してくれないのはちょっと寂しいなぁ。  それからすぐに先生が来て、体育館に移動しての入学式が始まった。    この高校は百年以上前に設立された古い高校で、壇上には歴代の校旗が誇らしげに飾られていた。  吹奏楽部が演奏するしっとりした音楽の中、クラス順に並んで入場していく私たち一年生。後方に座っている保護者たちが一斉にスマホやビデオを向ける。  緊張しながら着席すると、また隣は山岸くんだった。キチンとした姿勢で座っている。私もつられて背筋を伸ばした。  中学とは違う厳かな雰囲気の式典に私は密かに感動していた。ずっと憧れていた高校で、これから三年間を過ごすのだから、感動しないわけがない。  入学式が終わると教室に戻り、ホームルーム。お決まりの自己紹介を終えたあと、先生が話し始める。 「えー、まずは学級委員を決める。まだ君らはお互いの事を知らないだろうから、一学期だけは先生が決めるぞ。入試で点数のよかった二人にやってもらう。男子は尾崎。女子は和辻だ」  突然自分の名前が呼ばれて私は驚いてしまった。クラスの注目が一斉に集まる。 「有紗、凄いやん! 頭いいんやね!」  奈津が振り向き、手を叩いて喜んだ。 「そ、そんなことないよ。たまたまやって。ああ、びっくりしたあ」  本当に考えてもみなかった、まさか学級委員だなんて。アワアワしている私を隣の山岸くんはチラリと見て、興味なさそうに目を伏せた。
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