10 打ち上げの帰り道

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 突然、坂口くんは「あっ」と言って立ち止まった。 「俺ちょっと寄るところあるからここで~。じゃあねえ、坂口、和辻さん。バイバ~イ」  そして急に自転車にまたがると、手をひらひらと振りながら角を曲がって行ってしまった。  あっけにとられる私。山岸くんも驚いているのか、しばらく坂口くんを目で追っていた。 「あのさ」 「は、はいっ」  私もつられて立ち止まる。 「櫓……頑張ろうな」 「ね。一緒に頑張ろう」  目を見てそう答えると、山岸くんは少し頭を掻いてそれから笑った。  決めた。チャンスは今しかない。 「あのっ、山岸くん! 夏休みに入ったら会えなくなるし、たまにLIMEなんかしてもいいかな?」 「あ、うん。もちろん」 「ありがと」  良かった、断られなくて。二学期になったら席替えがあるし、きっと離れてしまうだろう。その前に少しでも距離を近づけておきたかった。  再び歩き始めるとすぐに駅に着いてしまった。大人たちが次々吸い込まれて行く。ちょうど、電車が来る時間なのだ。これを逃すとあと二十分待つことになる。 「じゃあ、電車乗るね」 「ああ。気をつけて」  電車がホームに滑り込んできた。私は改札を抜けて振り返り、山岸くんに手を振る。彼は、軽く右手を上げた。  発車のベルが鳴り電車が走り出す。山岸くんの家とは反対方向へと。建物に隠れて、電車からは彼の姿は見えなかった。 (せっかく二人きりだったし彼女がいるか聞くべきだったのかな。でも、LIMEできるだけでも嬉しいからいっか。まだ山岸くんには私のこと全然知ってもらえてないし、もっとたくさん会話して好きになってもらえるように頑張ろう)  三両しかない小さな電車に揺られながら、私は幸せな未来を思い描いていた。
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